ベンズブロマロン

ベンズブロマロンとは

ベンズブロマロン（英語名: benzbromarone）は、体内の尿酸量を調整する薬剤の一つで、特に腎臓からの尿酸排泄を促進する作用を持っています。主に痛風や高尿酸血症の治療に用いられますが、尿酸の生成を抑える第一選択薬であるアロプリノールの効果が不十分であったり、重篤な副作用が生じたりして使用が困難な場合に代替薬として選択されることが多い薬剤です。

構造的特徴

ベンズブロマロンの分子構造は、中心的な骨格としてベンゾフラン環を有しています。また、その名称「ブロム (brom)」が示す通り、分子内には臭素原子が結合しています。関連する化合物として、ベンズブロマロンの2つの臭素原子が水素原子に置き換わったベンザロンや、ヨウ素原子に置き換わったベンジオダロンが存在します。特にベンジオダロンは、心臓の薬であるアミオダロンと構造が似ているため、ベンズブロマロンもアミオダロンと構造が類似していると言われることがあります。

薬理作用

ベンズブロマロンの主な作用機序は、腎臓の近位尿細管に豊富に存在する尿酸トランスポーターであるURAT1を阻害することです。通常、糸球体でろ過された尿酸の大部分は、このURAT1によって再吸収されて血中へ戻されますが、ベンズブロマロンがURAT1を阻害することにより、尿酸の再吸収が抑制され、尿中への排泄量が増加します。この結果、血中の尿酸値が低下します。

ベンズブロマロンはURAT1に対して高い親和性を示し、非常に低い濃度（IC50値が約0.0345 μM）で濃度依存的に阻害作用を発揮することが知られています。しかし、この作用機序から、腎機能が著しく低下している患者さんでは、尿酸を排泄する能力自体が限られているため、ベンズブロマロンの効果は十分に期待できません。また、尿中への尿酸排泄が増えることで、既に腎臓に尿酸結石がある場合や結石ができやすい状態にある場合は、結石の形成や拡大を招き、病状を悪化させる可能性があります。

体内でベンズブロマロンは主に肝臓で代謝されますが、その主要な代謝物の一つである6-ヒドロキシベンズブロマロンも、ベンゾフラン環の水酸化によって生成し、腎臓におけるURAT1阻害作用を保持しています。ただし、6-ヒドロキシベンズブロマロンのURAT1に対する阻害効力はベンズブロマロン本体に比べて弱く（IC50値が約0.20 μM）、その作用はベンズブロマロンの約6分の1程度です。

加えて、6-ヒドロキシベンズブロマロンは、尿酸合成に関わるキサンチンオキシダーゼという酵素に対しても弱い阻害作用を持つことが報告されています（IC50値が約68 μM）。一方、ベンズブロマロン本体には、一部の薬物代謝に関わる酵素であるCYP2C9を阻害する作用があることも知られています。

薬物動態

健康な成人がベンズブロマロン25 mgを服用した場合、最高血中濃度に達するまでの時間は約2.8時間、血中からの消失半減期は約3.4時間です。服用されたベンズブロマロンは、主に肝臓のCYP2C9という酵素によって代謝され、前述の6-ヒドロキシベンズブロマロンなどが生成します。生成した6-ヒドロキシベンズブロマロンは、さらにグルクロン酸抱合などの反応を受けた後、主に尿や胆汁を介して体外へ排泄されます。例えば、100 mgを一度服用した場合、服用後72時間までに投与量の約1.2％が6-ヒドロキシベンズブロマロンとして尿中に排泄されます。

適応症

日本国内においては、ベンズブロマロンは以下の状態における高尿酸血症の改善に適用されます。

痛風
高尿酸血症を伴う高血圧症

世界的に見ると、ベンズブロマロンは第一選択薬ではありません。これは、アロプリノールに比べて大規模な臨床試験や研究の数が少ないことなどが背景にあります。しかし、日本人には尿酸の排泄能力が低いタイプの高尿酸血症患者が多いとされており、ベンズブロマロンによる治療が効果的な場合も少なくないという見解もあります。

重要な副作用：肝障害に関する警告

ベンズブロマロンの使用にあたっては、特に肝機能障害に厳重な注意が必要です。添付文書の「警告」欄にも明記されているように、劇症肝炎を含む重篤な肝障害が報告されており、特に投与開始から最初の6ヶ月以内に発現する頻度が高いことが知られています。これらの肝障害は、残念ながら死亡に至るような重篤な転帰をたどる事例も報告されています。

そのため、ベンズブロマロンの投与を開始した後、少なくとも6ヶ月間は定期的な肝機能検査を必ず実施する必要があります。検査値に異常が見られた場合や、黄疸などの症状が確認された場合は、直ちに投与を中止し、適切な医学的処置をとる必要があります。

患者さんに対しても、事前に肝障害が発生する可能性について十分説明するとともに、食欲不振、吐き気や嘔吐、全身の倦怠感、腹痛、下痢、発熱、尿の色が濃くなる、目の白目の部分が黄色くなる（黄疸）などの症状が発現した場合には、自己判断で服用を続けず、速やかに医療機関を受診するよう指導することが極めて重要です。

ベンズブロマロンや、構造が類似するベンザロンのように、分子中にベンゾフラン構造を持つ薬剤の一部で、重篤な肝障害を引き起こすリスクが報告されていることも、この薬剤の安全性プロファイルにおける重要な側面です。

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