ベンチャースター

ベンチャースター（VentureStar）

ベンチャースターとは、1996年にアメリカの航空宇宙企業であるロッキード・マーティンによって提唱された、単段式再使用型宇宙往還機（SSTO - Single Stage To Orbit）の概念設計です。これは、一度の打ち上げで軌道に到達し、繰り返し使用できる画期的な宇宙輸送システムを目指すものでしたが、残念ながら技術実証機X-33の開発中止という事態を受け、構想段階に終わりました。

この計画の主な目的は、当時運用されていたスペースシャトルに代わる次世代の宇宙輸送手段を確立することにありました。特に、人工衛星などのペイロードを軌道へ投入する際のコストを、当時の10分の1程度にまで劇的に削減することが重要な目標として掲げられていました。設計思想としては、無人での運用を基本とする完全再使用型のスペースプレーンが想定されていましたが、将来的に人員輸送、すなわち乗客を運ぶ可能性も考慮されていました。

機体設計には、主翼を持たず胴体そのものが揚力を発生させるリフティングボディ形状が採用され、安定性向上のために特徴的な4枚の垂直尾翼を備えていました。計画上の機体サイズは、全長約46メートル、全幅約48メートルと大型であり、総重量は約1,192トンに達するとされていました。最高速度はマッハ25という超高速を想定しており、これにより単段での軌道到達を目指しました。運用形態としては、ロケットのように垂直に離陸し、帰還時には飛行機のように滑走路に着陸するという、柔軟な運用が可能になるよう構想されていました。

推進システムには、液体酸素と液体水素を推進剤とする先進的なリニアエアロスパイクエンジンの採用が計画されていました。このエンジンは、高度によらず高い推進効率を発揮できる特性を持ち、SSTO実現のための鍵となる技術と見なされていました。また、大気圏再突入時の高熱から機体を保護する耐熱システムには、従来のセラミックタイルに代わる金属製の新型材料が検討されていました。これは、整備費用を低減し、メンテナンス作業の安全性を高めることを目的としていました。ペイロードの搭載能力も考慮されており、機体中央部に主要な貨物室が設けられるほか、胴体背面にもカーゴ・ベイが配置される設計でした。

技術実証機X-33

ベンチャースターの実現には、リニアエアロスパイクエンジンや先進的な軽量複合材燃料タンクなど、多くの未実証技術が必要でした。これらの技術的な実現可能性を確かめるために、NASAとロッキード・マーティン社は共同で、ベンチャースターのスケールダウン版である技術実証機X-33の開発プロジェクトを推進しました。ロッキード・マーティンの有名な先進開発部門「スカンクワークス」が開発を担当しました。

X-33は、ベンチャースターと似たリフティングボディ形状を持っていましたが、その規模はベンチャースターの半分以下で、全長約21メートル、全幅約23メートル、総重量約129トンでした。試験飛行は主に亜軌道で行われ、最高速度もマッハ13程度に抑えられていました。この実験機を通じて、ベンチャースターに必要な基幹技術の検証を行う計画でした。

しかし、X-33の開発は、設計上の困難や技術的な問題に直面し、度重なる試験の失敗、開発スケジュールの遅延、そしてそれに伴う予算の超過に見舞われました。特に、推進システムや複合材製燃料タンクの開発が難航しました。最終的に、技術的な課題を克服することができず、計画の継続が困難になったため、2001年3月1日にX-33開発計画は中止されました。

技術実証機であるX-33計画の終了は、ベンチャースター構想にとって致命的な打撃となりました。ベンチャースターはX-33によって実証されるはずだった基幹技術の上に成り立つ計画であったため、X-33の中止はそのままベンチャースター構想の終了へと直結しました。こうして、低コストで再利用可能な宇宙輸送という野心的な夢を乗せたベンチャースターは、実現することなく幻の宇宙機となりました。

関連項目

スペースシャトル
オリオン (宇宙船)
* キャンセルされた発射ロケット設計のリスト

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