ベントレー・ターボR

ベントレー・ターボR：高級車の概念を変えた名車

ベントレー・ターボRは、イギリスの自動車メーカー、ベントレーモーターズが1985年から1997年にかけて製造・販売した高級サルーンです。このモデルは、ベントレーの歴史において重要な転換期を象徴する存在であり、ブランドイメージの刷新と販売台数の飛躍的増加に大きく貢献しました。

ミュルザンヌをベースにした高性能モデル

ターボRは、ベントレーのフラッグシップモデルであるミュルザンヌとシャシを共有しながらも、よりスポーティな走行性能を実現するために、いくつかの改良が加えられています。特に、ミュルザンヌ・ターボから搭載されたターボチャージャー付きV型8気筒エンジンは、ボッシュMKモトロニック燃料噴射装置の採用により、トルクが向上。パワフルな走りを可能にしました。

また、ターボRは、ベントレー車として初めてスポーツサスペンションとワイドタイヤを採用しました。これにより、重量級のボディを巧みに制御し、優れたハンドリング性能を実現。スタビライザーの強化（フロント60％、リア80％増加）、ショックアブソーバーのチューニング、そしてラテラルロッドの導入により、コーナーリング時のロール（左右への傾き）を抑制し、安定した走りを実現しています。スプリングレートはミュルザンヌと同一ですが、サスペンションの改良によって、従来のベントレーにはないダイナミックな走りが可能となりました。

最高出力は『モータートレンド』誌によると295PS、最大トルクは660N・mと、当時の高級車としては圧倒的なパワーを誇りました。ただし、ロールス・ロイス社からは公式な性能データは公開されていませんでした。

ブランドイメージの変革と市場での成功

ターボRは、世界中で大きな成功を収め、それまでロールス・ロイスに販売台数を大きく下回っていたベントレーのブランドイメージを大きく変えました。初めてロールス・ロイスの販売台数を上回るなど、低迷していたベントレーの復活のきっかけを作ったのです。

特に日本市場においては、バブル景気期の高度経済成長による需要の高まりから、正規輸入代理店への年間割り当て台数を超える需要が発生しました。その結果、並行輸入車が多数市場に流通し、高価格で取引されるほどの人気ぶりとなりました。1989年の『モータートレンド』誌は、ターボRを「この数十年で最初の、その名に値するベントレー」と高く評価しました。

アメリカの販売価格は19万5000ドルで、ミュルザンヌよりも高価でしたが、シルヴァースピリットよりも3万9000ドル安価に設定されました。生産台数はショートホイールベース版が4653台、ロングホイールベース版の「ターボRL」が1211台、合計5864台にのぼります。

1995年モデルの改良

1995年には、ターボRの改良版が発表されました。ザイテック製の燃料噴射装置と4速オートマチックトランスミッションが採用され、さらなる走行性能の向上が図られました。改良版の生産台数は、ショートホイールベース版が543台、ロングホイールベース版が823台、合計で1366台でした。

まとめ

ベントレー・ターボRは、伝統的な高級車の枠を超え、スポーティな走行性能と快適性を両立させた画期的なモデルでした。その成功は、ベントレーというブランドの地位を確固たるものとし、後のモデルにも大きな影響を与えたことは間違いありません。 この車は、単なる高級車ではなく、自動車史における重要な1台として記憶されています。

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