ベンベン

ベンベンは、現在のエジプト、カイロ近郊に位置する古代都市ヘリオポリス（当時のエジプト名はオン）にあったとされる、神聖な丘の名前です。

その名称「ベンベン」は、エジプト語の「ベン」（何回も生む・生まれる）という言葉を重ねたものであり、「永遠」や「反復的な創造」といった意味が込められています。

創世神話における役割

古代エジプトの創世神話、特にヘリオポリスの伝承において、ベンベンは世界の始まりに関わる極めて重要な存在として描かれています。

それは、混沌と広がる原初の水ヌンの中から最初に姿を現した、まさに「原初の丘」でした。

この丘は、まだ何も存在しない世界において、全てが生み出されるための安定した大地の基盤であり、最初に神々が降り立ったとされる神聖な場所、「世界の始まりの地」と見なされていました。

信仰と歴史

太陽神ラーが自らの誕生の際に、再生を象徴する神秘的な鳥ベンヌの姿をとり、この原初の丘ベンベンの上にとまったという神話は広く語り継がれています。

このようなベンベンに対する信仰は非常に古く、エジプト最初の王朝が成立した紀元前30世紀頃には既に存在していたと考えられています。

ベンベン石

この神聖な原初の丘ベンベン、あるいはそこへ降り注ぐ太陽光線を象徴的にかたどった石造りの記念物が「ベンベン石」（Benben stone）と呼ばれます。

ベンベン石は一般的にピラミッドの頂点のような四角錐の形状をしており、本来の表面には貴重な金や銀の合金であるエレクトラムなどで鍍金が施されていました。

この加工によって、ベンベン石は太陽の光を受けると、あたかもそれ自身が光を発しているかのようにまばゆく輝いたと伝えられています。

ピラミッドやオベリスクとの関連

ベンベン石は、古代エジプト文明を象徴する巨大な建築物であるピラミッドやオベリスクの原型になったとも言われています。

さらに、これらの建造物の最上部、つまり頂上に据えられたキャップストーンもまた、ベンベン石の一種とされ、特に「ベンベネト」という名称で呼ばれていました。

ただし、巨大ピラミッドの建設が難しくなった時代に、ファラオがピラミッドの代わりに太陽神殿にベンベン石を置くようになったという異説も存在します。

神殿におけるベンベン石の配置

ヘリオポリスに建立された太陽神ラーの神殿において、ベンベン石は最も神聖な礼拝対象の一つであり、神殿の中央や正面といった、特に重要な場所に丁重に安置されるのが通例でした。

これは、原初の丘ベンベンが「昇る朝日が最初に光を投げかける場所にある」と信じられていたことから、その象徴であるベンベン石もまた、神殿内で太陽の光を最初に受けられるような場所に配置されたためと考えられています。

再生と復活の象徴

ベンベンの丘そのものには、世界の創造と再生、そして復活の力を司る精霊が宿ると深く信じられていました。

同様に、それを模して作られたベンベン石にも同じ精霊が宿ると考えられており、後に太陽神アトゥム、あるいはラーやアメンといったエジプトの主要な神々と同一視されるようになりました。

これは、ベンベンが創世と始まり、そして太陽が毎日昇り沈みを繰り返す再生の象徴であったことに由来する信仰です。

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