ベーカーストリート・アンド・ウォータールー鉄道

ベーカーストリート・アンド・ウォータールー鉄道：ロンドン地下鉄ベーカールー線の歴史

ベーカーストリート・アンド・ウォータールー鉄道（Baker Street and Waterloo Railway、BS&WR）は、1893年に設立されたロンドンの地下鉄会社です。当初は「ベーカールー・チューブ」とも呼ばれ、ベーカーストリートとウォータールーを結ぶ路線として計画されました。しかし、建設は資金調達の困難や、主要株主だったワイテイカー・ライトによる詐欺事件の影響で何度も中断を余儀なくされました。

創立と路線計画

BS&WRの建設予定地では、19世紀半ばから様々な地下鉄計画が提案されてきました。空気圧推進の鉄道や、シーメンスによる電気鉄道などが構想されましたが、いずれも資金不足で頓挫しました。BS&WRの発案者たちは、1890年に開業し成功を収めたシティ・アンド・サウス・ロンドン鉄道に刺激を受け、新たな地下鉄建設に乗り出しました。

1891年、BS&WRの建設計画は議会に提出され、1893年に法案が承認されました。路線はベーカーストリートからウォータールーまでを地下で結ぶ計画で、主要駅としてベーカーストリート、オックスフォード・サーカス、ピカデリー・サーカス、トラファルガー・スクエア、エンバンクメント、ウォータールーなどが予定されました。

建設資金調達

しかし、資金調達は容易ではありませんでした。BS&WRを含む多くの地下鉄会社は、1890年代を通じて資金集めに苦労しました。1897年、BS&WRはロンドン・アンド・グローブ金融との取引を開始しました。同社は建設資金を提供する代わりに、工事利益を独占する契約でした。

ところが、ロンドン・アンド・グローブ金融の経営者ライトの不正経理が発覚し、1900年に倒産。BS&WRは建設中断の危機に陥りました。その後、アメリカ人投資家チャールズ・ヤーキスがBS&WRを買収し、ロンドン地下電気鉄道（UERL）傘下に入ることによって、建設が再開されました。ヤーキスは主にイギリス国外から資金を調達し、工事は進展していきました。

路線計画の変更と建設

建設期間中は路線計画の変更も繰り返されました。終点の位置変更や、延伸計画などが議会で審議されました。特にパディントンやクイーンズ・パークへの延伸は、既存鉄道会社との競合や、資金の問題で何度も延期されました。

1898年に始まった建設工事は、テムズ川の下を通るトンネル掘削など、技術的に困難な課題を克服しながら進められました。当時としては最先端の自動信号システムも採用されました。駅の地上構造物は、ロンドン地下電気鉄道の標準設計によるもので、建築家レスリー・グリーンが設計を担当しました。

開業と運営

1906年3月、BS&WRはついに開業しました。当初は想定を下回る乗客数に苦しみましたが、路線延伸や他の地下鉄会社との連携、そして「アンダーグラウンド」という統一ブランドの導入など、様々な施策によって経営は改善されていきます。

延伸と公営化

その後、BS&WRはパディントン、クイーンズ・パーク、そしてワトフォードまで路線を延伸しました。この間、第一次世界大戦の影響を受けつつも、技術革新や経営努力が重ねられました。しかし、地下鉄各社の収益は伸び悩み、ロンドン地下電気鉄道はバス事業などを展開して赤字を補填していました。

1933年、BS&WRはロンドン旅客運輸公社に吸収され、公営化されました。これにより、BS&WRが建設した路線は、現在のロンドン地下鉄ベーカールー線として現在も運行を続けています。

脚注

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