ベーキング

ベーキングとは

ベーキング（Baking）は、英語の「Bake（焼き固める、乾かす）」を語源とする言葉です。一般的にはオーブンで調理することを指しますが、技術分野ではより広範な意味で使用されています。この記事では、特に加熱処理を目的としたベーキングについて、その多様な応用例を詳しく解説します。

加熱処理としてのベーキング

ベーキングは、特定の目的のために熱を利用する処理全般を指します。以下に、主な応用例を分野別に説明します。

金属の水素除去

金属は、腐食、溶接、酸洗浄、電気メッキなどの過程で水素を吸収しやすく、これにより強度が低下する「水素脆化」という現象が起こることがあります。これを防ぐため、金属を加熱して水素を放出させるベーキングが行われます。この処理により、金属の強度と耐久性を回復させることができます。

真空装置の脱ガス

真空装置の内部は、様々な不純物が吸着しやすい環境にあります。これらの不純物は、装置を真空状態にする過程で放出ガスとして放出され、十分な高真空を妨げる原因となります。そこで、真空チャンバーの外壁にヒーターを巻き付け、チャンバー全体を加熱するベーキングが行われます。この加熱により、吸着していた不純物を強制的に排出し、高真空状態を実現します。

特に、半導体製造プロセスでは、真空チャンバー内の不純物が製品の歩留まりに大きな影響を与えるため、ベーキングは不可欠な工程です。半導体製造装置の写真でよく見られるアルミホイル巻きは、ベーキングの際に熱を均一に伝えるための工夫です。

鉛冷却原子炉のベーキング

鉛ビスマスを冷却材とする原子炉では、冷却材が中性子を捕獲することでポロニウム210が生成されます。このポロニウムは、原子炉内に付着して放射線を放出するため、メンテナンスを困難にします。そこで、原子炉のメンテナンス前にベーキングを行います。具体的には、原子炉を真空チャンバー化し、減圧下で高温に加熱することで、ポロニウムを蒸発させて除去します。この技術は、高速増殖炉や加速器駆動未臨界炉で、核燃料の効率的な変換や核廃棄物の低減にも貢献しています。

宇宙機におけるベーキング

人工衛星などの宇宙機は、分子状コンタミネーション（有機物の汚染物質）の付着により、光学機器の性能低下や太陽電池の発電効率低下など、様々な悪影響を受ける可能性があります。宇宙空間では、宇宙機自体がコンタミネーションの発生源となるため、打ち上げ前にベーキングを行い、汚染物質を事前に除去する必要があります。通常は、真空チャンバー内で加熱しますが、コストや開発工程の都合により大気圧下で行われることもあります。

まとめ

ベーキングは、単なるオーブン調理だけでなく、様々な技術分野で重要な役割を果たす加熱処理技術です。金属の強度回復、真空装置の性能向上、原子炉の安全なメンテナンス、宇宙機の信頼性確保など、幅広い分野で応用されており、その重要性はますます高まっています。

関連用語

分子線エピタキシー法
チャンバー
真空
真空チャンバー
真空装置
放出ガス

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