放出ガス

放出ガスとは

放出ガスとは、真空チャンバーや真空部品などから、真空ポンプで排気された真空状態において放出される気体成分のことです。真空チャンバー内部の到達圧力は、真空ポンプの排気量、真空チャンバーの内部容積、そしてこの放出ガスの量によって決まるため、真空装置を設計する上で非常に重要な要素となります。

真空装置に使用される材料は、通常の材料よりも放出ガスが少ないものが選ばれます。これらは真空用材料と呼ばれ、真空環境での安定性を保つために重要な役割を果たしています。

放出ガスの種類

放出ガスには、主に以下の2種類があります。

1. 吸着ガス：材料表面に吸着しているガスです。代表的なものとして水があり、その他にも洗浄で取りきれなかった有機物や、窒素や酸素などの気体成分が吸着しています。

2. 吸蔵ガス：材料内部に閉じ込められているガスです。材料によって成分は異なりますが、ステンレス鋼内部に吸蔵されている二酸化炭素が代表的です。ステンレス鋼製の真空チャンバーを分析すると、大気成分よりも二酸化炭素の割合が多く現れることがあります。また、真空フランジに使用されるエラストマーシールの吸蔵ガスも、放出ガスに大きく影響することがあります。

放出ガスを抑える方法

放出ガスは、真空装置の到達圧力を制限し、目標圧力までの到達時間を長くする主な要因です。完全に除去できない放出ガスもありますが、いくつかの方法でその量を減らすことができます。

1. ベーキング：真空チャンバーや真空部品を加熱することで、吸着ガスや吸蔵ガスを積極的に放出させる方法です。温度を上げることで分子のエネルギーが大きくなり、蒸気圧が上昇してガスが放出されやすくなります。ベーキングは、真空プロセスを開始する前に行うことで、実際の運用時の圧力を安定させたり、到達圧力を向上させる効果があります。

ベーキングの際には、真空チャンバーにヒーターを取り付けて加熱するのが一般的です。アルミホイルで覆われた真空装置の写真を見ることがありますが、これはベーキング時に断熱してチャンバー内部の温度を均一にするためのものです。
ただし、ベーキングは真空フランジのシール材や、真空装置を構成する材料の耐熱温度を考慮して行う必要があります。

2. 洗浄：真空チャンバーや真空部品を、真空排気前に十分に洗浄することが重要です。機械加工された部品には、切削油や人の油分、大気中の水分、埃などが付着しているため、これらを事前に取り除く必要があります。洗浄には、溶剤を使った超音波洗浄などがよく用いられます。

3. 表面の改質：放出ガスは材料の表面から放出されるため、表面を改質することでガス放出を抑制できます。表面の粗さはそのまま真空にさらされる面積となるため、表面を平坦化することで放出ガスを減らすことができます。電解研磨は、表面を鏡面状に仕上げるのに有効な方法です。

関連事項

放出ガスは、真空技術において重要な要素です。関連する項目として以下のようなものがあります。

真空
真空装置
真空部品
真空計
真空バルブ
真空ポンプ
真空チャンバー
真空フィードスルー
シール (工学)
リークテスト
蒸気圧
ベーキング

これらの知識を併せて理解することで、より効果的な真空装置の設計と運用が可能になります。

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