ペイダス

ペイダス（Φείδας, Pheidas）

ペイダスは、古代ギリシアの叙事詩において語り継がれる、トロイア戦争の時代に存在したとされる人物です。彼は、アカイア（ギリシア）連合軍の一員としてこの大規模な戦役に参加しました。具体的には、アテーナイから遠征軍を率いてきた将、メネステウスの配下の一人であったと記録されています。

トロイア戦争における役割

ペイダスが登場し、その名が特筆されるのは、トロイア戦争の重要な局面の一つです。アカイア軍は、自軍の野営地を守るために堅固な防壁と濠を築いていましたが、トロイア軍とその同盟軍であるリュキア勢の猛攻により、この防御線が破られる危機に瀕していました。

防壁攻防戦での活躍

特に激しい攻撃は、アカイア軍の防壁の一部に集中しました。トロイア軍とリュキア軍の戦士たちは、防壁を乗り越え、あるいは破壊して、ギリシア軍の陣営内部へと侵入を試みました。この時、アテーナイ勢を率いていたメネステウスは、敵の激しい攻撃を受けて窮地に立たされていました。彼は、近くで戦っていた他のギリシア軍の有力な指揮官たち、特に大アイアースと小アイアースに援軍を求める伝令を送るほどの危機的な状況にありました。

このような切迫した状況下で、ペイダスは主将メネステウスを支援するために立ち上がりました。彼は同じくメネステウスの配下であったスティキオスやビアースといった仲間たちと共に、敵の侵入を許しつつある防壁のもとへ急行しました。彼らは、連携してメネステウスの周囲を守り、迫りくるトロイアおよびリュキアの戦士たちと果敢に戦いました。この時の彼らの奮闘は、メネステウスが完全に孤立し、壊滅的な打撃を受けることを防ぐ上で重要な役割を果たしたと考えられます。

ペイダスたちが示した忠誠心と勇気は、戦況が不利に傾きつつある中でも、個々の兵士たちが自らの義務を果たし、仲間を助けるためにリスクを厭わなかったことを物語っています。彼らのような名もなき、あるいはあまり広く知られていない英雄たちの存在と行動が、全体の戦局に影響を与えた場面として、ペイダスのエピソードは語り継がれています。

典拠

ペイダスに関する記述は、古代ギリシア最大の叙事詩の一つであるホメロスによる『イリアス』に見られます。この壮大な物語の中で、トロイア戦争の様々な局面、多くの英雄たちの武勇伝や苦悩が描かれており、ペイダスが登場する防壁戦の場面もその一部を構成しています。彼の名は、特定の危機的状況下で、主君を助けるために具体的な行動を起こした人物として記録されており、『イリアス』が伝えるトロイア戦争の群像劇において、アテーナイ勢の小隊長の一人、あるいはそれに準ずる立場の人物として、その存在感を示しています。

ペイダスの物語は、ホメロスが描いた英雄時代の戦いにおいて、大英雄だけでなく、彼らを支え、あるいは共に戦った無数の兵士たちの貢献にも光を当てていることを示唆しています。彼の活躍は、特定の緊迫した場面における具体的な行動を通じて、ホメロス文学が伝える人間的なドラマの一部を形成していると言えるでしょう。

参考文献

* ホメロス著、松平千秋訳『イリアス（下）』岩波文庫、1992年

もう一度検索