ペイライオス

古代ギリシアの詩人ホメーロスが著した大叙事詩『オデュッセイアー』に名を連ねる人物に、ペイライオス（古希: Πείραιος, Peiraios）がいる。彼は、イタケー島の高名な人物クリュティオスの息子として生まれ、この物語の主人公であるオデュッセウスの息子、青年テーレマコスの親しい友人として登場する。物語中では特に「槍の名手」と称されることもあり、その武勇の一端がうかがえる。

神話における役割

ペイライオスは、『オデュッセイアー』において、テーレマコスの重要な旅と帰還の場面でその存在感を示す。

テーレマコスとの旅: 父オデュッセウスの消息を求めて故郷イタケー島を離れ、賢王ネストールを訪ねてピュロスへと旅立った際、ペイライオスは彼に付き従った少数の従者の一人として、この重要な旅路を共にした。

忠誠心とテオクリュメノスの保護: 長い旅を終えてイタケー島へと帰還した後、テーレマコスは、自身に従ってやってきた予言者テオクリュメノスの身の振り方について考慮した。ペイライオスはテーレマコスに対して比類なき忠誠心を示しており、この信頼に応える形で、テーレマコスはテオクリュメノスの保護と世話を彼に託した。ペイライオスは快くこれを受け入れ、テオクリュメノスを自身の館へと迎え入れたことは、彼の誠実な人柄を示すエピソードである。

メネラーオスからの財宝: また、テーレマコスが旅の途中で立ち寄ったスパルタにおいて、王メネラーオスから贈られた貴重な財宝も、ペイライオスの館に預けられていた。これには、メネラーオスが自身の秘蔵としていた品々が含まれており、中でも特筆すべきは、シドン王パイディモスを通じてメネラーオスに渡ったとされる、鍛冶神ヘーパイストスが制作したという、精巧で美しい銀製の混酒器であった。ペイライオスは、これらの価値ある品々を責任を持って保管していた。

財宝の運搬を巡る会話: ペイライオスは、テオクリュメノスを連れてイタケーの集会場へ向かった際、そこでテーレマコスに会うと、預かっている財宝をオデュッセウスの館へ運ばせるために下女を遣わしてほしいと申し出た。これは、テーレマコスに返還すべき財産であるという彼の認識に基づく行動であった。

テーレマコスの意図: しかし、テーレマコスはこの提案を即座には受け入れなかった。彼は、故郷イタケー島において、母ペーネロペーに言い寄る多数の求婚者たちが、自身の命を狙い、やがては先祖伝来の財産を奪い合い山分けするかもしれないという、差し迫った危機を感じていた。もし自身がその手に倒れるような事態になった場合、それらの貴重な財宝が、欲深い求婚者たちの手に渡るよりも、ペイライオスのような信頼できる友人や、その他の親しい人々の手に渡る方が、はるかにましであると考えていたのである。このような状況認識から、テーレマコスはペイライオスの申し出を見送る判断を下した。

テオクリュメノスの帰宿: その後、テオクリュメノスはテーレマコスによって集会場からオデュッセウスの館へと案内された。しかし、館に居座る求婚者たちの傍若無人な振る舞いに予言者テオクリュメノスは深く憤慨し、彼らの行状を見かねて、オデュッセウスの館を去ることを決意した。そして彼は、再び保護を求めて、ペイライオスの館へと戻ったのである。

ペイライオスは物語全体を通して、テーレマコスの忠実な友として、また困難な状況にある人々（予言者テオクリュメノス）や貴重な財産を預かる者として、重要な役割を果たした。彼の誠実さと信頼性は、『オデュッセイアー』における彼の描写の核となっている。

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