テオクリュメノス

テオクリュメノス（古希: Θεοκλύμενος, Theoklymenos）は、ギリシア神話において複数の人物がこの名で呼ばれます。中でも特に著名なのは、ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場する予言者と、エウリーピデースの悲劇『ヘレネー』に現れるエジプトの王の二人です。それぞれの人物の物語と役割を見ていきましょう。

ポリュペイデースの子テオクリュメノス

彼は優れた予言者ポリュペイデースの子であり、有名な予言者メラムプースの系譜に連なります。兄弟にハルモニデーがいました。

『オデュッセイア』の物語では、テオクリュメノスは故郷アルゴスで親族を誤って殺害したため、復讐から逃れるべく各地を放浪していました。旅の途中、彼はピュロスで故郷イタケーへの帰途につこうとしていた若者テーレマコスに出会います。事情を話して同船を求め、テーレマコスは彼を快く受け入れました。

イタケーに到着後、テオクリュメノスはテーレマコスの母ペーネロペーの館に押し寄せる多数の求婚者たちの状況を知ります。彼は予言者としての能力を発揮し、鳥占いによって、イタケーの王位はオデュッセウスの一族のものであると予言しました。この予言を受け、テーレマコスは当初考えていた場所ではなく、信頼する友人ペイライオスの館にテオクリュメノスを滞在させることに決め、その後、改めてオデュッセウスの館へと案内しました。

館でテーレマコスとペーネロペーの歓待を受ける中、テオクリュメノスはテーレマコスが父の消息を語る最中に口を挟み、船上で目撃した鳥の前兆に基づき、オデュッセウスが既に帰国し、求婚者たちに間もなく報復するだろうと予言します。これは真実でしたが、ペーネロペーには容易に信じられませんでした。

ペーネロペーが弓競技による新たな夫選びを決定する前日、テオクリュメノスは求婚者たちの破滅的な未来を幻視しました。彼らは闇に包まれ、涙を流し、周囲は血で染まり、無数の亡霊が冥府へ急ぐ光景でした。テオクリュメノスはこの恐ろしい予兆を告げましたが、傲慢な求婚者たちは耳を貸しませんでした。彼は彼らの避けられない運命を改めて予言し、ペイライオスの館へ引き上げました。

翌日、求婚者たちは誰一人としてオデュッセウスの弓を引けず、姿を現したオデュッセウスとその一族によって、テオクリュメノスの予言通りに滅ぼされました。彼の予言はことごとく実現したのです。

プローテウスの子テオクリュメノス

こちらはエジプトの王プローテウスと、海の精プサマテーの息子です。妹に予言能力を持つテオノエーがいました。

エウリーピデースの悲劇『ヘレネー』の独自設定では、トロイア戦争の原因となったスパルタ王妃ヘレネーは、実際にはヘーラー女神が作った幻影であり、本物のヘレネーは神々の手でエジプトに運ばれ、父プローテウスによって匿われていました。

父プローテウスの死後、テオクリュメノスが王位を継ぎますが、彼は異国の者、特にギリシア人を捕らえては殺すという残虐な王でした。さらに、父が保護していたヘレネーに対し、結婚を強要しようと企てます。

長年ヘレネーを探し続けた夫メネラーオスはエジプトに漂着し、ついに本物のヘレネーと再会します。二人はテオクリュメノスの追跡を逃れるため、妹テオノエーの予言による助け（または黙認）を得て、エジプトからの脱出を計画し、実行に移しました。

二人の逃亡を知ったテオクリュメノスは激怒し、協力した妹テオノエーを殺害しようとしますが、その場に現れたヘレネーの兄弟である双生児神ディオスクーロイによって阻止されました。

結び

このように、テオクリュメノスという名は、ギリシア神話において予言者と暴虐な王という全く異なる立場の人物を指し、それぞれの物語世界で重要な役割を果たしています。

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