ペイル (紋章学)

ペイル：紋章を彩る垂直の帯

紋章学や旗章学において、ペイル（Pale）は、盾や旗の中央を上下に貫く垂直の帯状の図柄です。チーフ、ベンド、シェブロン、フェスと並んで、紋章の基本図形の一つに数えられます。一般的に縦帯を指しますが、紋章記述では垂直な帯全般を広く指す場合があります。

ペイルの起源と語源

ペイルの語源は、ラテン語の「棒」を意味する pālus に遡ります。古英語を経て中英語に取り入れられ、高い塀を作るための杭を指す言葉として使用されていました。紋章におけるペイルは、この杭との類似性から名付けられたと考えられています。「青白い」を意味するペイルとは語源が異なるため、注意が必要です。

ペイルの幅

ペイルの幅は、盾全体に対する割合で表現され、紋章官によって見解が分かれています。一般的には、盾の5分の1から3分の1程度とされています。しかし、固定された幅はなく、他の図柄（チャージ）がペイル上に配置されていない場合は、比較的細くなることもあります。逆に、チャージが描かれる場合は、チャージのためのスペースを確保するため、幅が広くなる傾向があります。

ペイレット (Pallets)

複数のペイルが盾に描かれる場合、イギリスの紋章学ではペイレット (Pallets)と呼ばれます。ペイレットはペイルの縮小形とみなされることが多いですが、2本のペイレットの場合、ペイルと比べて細くない場合もあります。また、周囲のチャージとのバランスから、幅が狭くなることもあります。ただし、1本の帯は、どんなに細くてもペイレットとは呼びません。

ペイルの変形：クーペドとエンドース

ペイルは、盾の上下端まで届かないように短くカットされることがあります。これをクーペド (couped)と言います。特に、盾の上部でカットされたペイルは「ア・ペイル・リトレイト (a pale retrait)」、下部でカットされたペイルは「ア・ペイル・リトレイト・イン・ベース (a pale retrait in base)」と呼ばれます。この用語はペイレットにも適用されます。

通常のペイルの約4分の1の幅のペイルをエンドース (endorse)と呼び、2本のエンドースで挟まれたペイルをペイル・エンドースト (pale endorsed)と記述します。ベンドやフェスのようにコティス (cotised)という表現も使われます。

ペイルに関連する用語

イン・ペイル (in pale): 複数のチャージが垂直に一列に並んでいる状態。チャージが一つならペイルワイズと同じ意味になることも。
ペイルワイズ (palewise): チャージがペイルのように垂直に配置されている状態。
パーティ・パー・ペイル (party per pale): ペイル方向の線で盾を2分割すること。左と右のフィールドに異なる色（ティンクチャー）を配置する。
ティアスト・パー・ペイル (tierced per pale): ペイル方向の2本の線で盾を3分割すること。ティアスト・ペイルワイズ (tierced palewise) ともいう。左、中央、右のフィールドに異なる色を配置する。多くの三色旗はこの図柄を用いている。
* ペイリー (paly): 4つ以上の偶数の垂直帯で分割された盾。金属色や毛皮模様と原色が交互に配置される。初期の紋章学ではよく使われたが、現在はフィールドのバリエーションを記述するために使われる。

アメリカ合衆国国章の特殊例

アメリカ合衆国国章の盾は、「Paleways of thirteen argent and gules, a chief azure（銀色と赤色のペイル方向の13分割に青色のチーフ）」と記述されています。これは伝統的なイギリスの紋章学とは異なる表現であり、厳密には誤りです。正確には「Argent, six pallets gules and a chief azure（銀色の地に6本のペイレットに青色のチーフ）」となります。しかし、13という数字は13植民地を象徴する重要な数字であるため、この数字を維持するために伝統的な記述を逸脱しているのです。ペイリーを用いることも考えられますが、ペイリーは偶数分割のため13分割は不可能です。アメリカ沿岸警備隊の紋章では、誤って13分割のペイリーが使われている例も見られます。

まとめ

ペイルは、紋章学における重要な図柄であり、その幅や配置、組み合わせによって様々な表現が可能です。アメリカ合衆国国章に見られるように、伝統的なルールを逸脱した用法も見られることから、紋章学の歴史や文化的な背景を理解することも重要です。

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