ペインキラー (アルバム)

PAINKILLER (ペインキラー)

『ペインキラー』は、イギリスのヘヴィメタルバンド、ジューダス・プリーストが1990年に発表した通算12作目のオリジナル・アルバム、およびそのアルバムの冒頭を飾る表題曲のタイトルです。オリジナル盤はコロムビア・レコードから、日本盤はソニー・ミュージックからリリースされました。

過去にデジタルリマスター盤が幾度となく発売されていますが、そのリマスター音源は基本的に2001年盤のものが使用されています。ただし、2012年には日本限定で「来日記念2012年リマスタリング音源」が特別にリリースされています。

解説

本作は、バンド自身も関係者も「第二のデビュー」と評するほど、ジューダス・プリーストの歴史を語る上で欠かせない名盤の一つとして位置づけられています。これは、それまでの音楽性から大きく方向転換したことによるものです。

1989年に脱退したドラマー、デイヴ・ホーランドの後任には、元レーサーXのスコット・トラヴィスが迎えられました。当時アリゾナ州フェニックスに住んでいたボーカルのロブ・ハルフォードは、新たなドラマーを探すべく地元のクラブで若いバンドをチェックする中でスコットを見出し、彼の才能に注目しました。メンバーは技術だけでなく人間性も見極めるため、リハーサルを兼ねた共同生活を経て、スコットを正式メンバーとして迎えることを決定しました。

彼の加入はバンドサウンドに革命をもたらしました。特に、過去のドラマーには見られなかった彼の卓越したバスドラムテクニックが、バンドの音楽性をモダンなパワーメタルへと進化させたのである。バンドメンバー自身も、「LEATHER REBEL」や「METAL MELTDOWN」といった楽曲はスコットの参加なしには実現し得なかったと認め、「強力な後継者を得た」とその貢献を高く評価しています。

ドラムサウンドだけでなく、ボーカルスタイルにも変化が見られます。ロブによる高音シャウトが随所で多用されるなど、よりアグレッシブな表現が増えました。ギタープレイは速弾きが多用される一方、シンセサイザーの存在感は以前よりも薄くなっています。

プロデューサーもまた刷新されました。『BRITISH STEEL』から前作まで長年タッグを組んだトム・アロムに代わり、クリス・タンガリーディスが起用されました。クリスはバンドのセカンド・アルバム『運命の翼』でアシスタント・エンジニアを務めた経験があります。興味深いことに、ジューダス・プリーストが1986年末に『TURBO』ツアーで来日公演を行っていた際、クリスは偶然にもANTHEMのプロデュースのために日本に滞在していました。音楽評論家でありANTHEMの所属事務所社長でもあった伊藤政則氏は、長年会っていなかった彼にバックステージパスを渡し、その後の会話の中で「いつかまた一緒に仕事をしよう」という話になったそうです。伊藤氏自身も、彼らが再びタッグを組んだことに驚いたと、本アルバムのライナーノーツに記しています。

バンド自身は、本作に商業的なヒットを意識した楽曲は収録せず、表題曲である「PAINKILLER」と「A TOUCH OF EVIL」の二曲で勝負に出ることを表明しました。この二曲はシングルカットされ、プロモーションビデオも制作されています。

ジャケットアートワークには、荒廃した都市の上空にバイクに乗った人物が現れる様子が描かれており、これは表題曲「PAINKILLER」の歌詞世界観を象徴しています。描かれた人物は「ペインキラー」と呼ばれ、歌詞によれば彼は機械と融合したサイボーグです。彼が操る龍のような形状のバイクは「メタル・モンスター」と名付けられています。2020年には、表題曲の新たなリリックビデオが制作され、ペインキラーとメタル・モンスターもアニメーションで登場しました。

しかし、本作リリース後、ロブ・ハルフォードは自身のソロ活動を巡るメンバーとの軋轢から、1993年にバンドを離れることになります（後に『ANGEL OF RETRIBUTION』で復帰）。

アルバム発表から30年を経た2020年、ドラマーのスコット・トラヴィスによって、レコーディング時にキーボーディストのドン・エイリーが全楽曲のベースパートを担当していたという秘話が明かされました。これは、レコーディング期間中に本来のベーシストであるイアン・ヒルが体調不良でセッションに参加できなかったためである。結果として、「A TOUCH OF EVIL」にキーボードで参加していたドンが、ミニモーグを用いてシンセベースを演奏することになりました。ただし、一部のパートではイアンのベース演奏もミックスされているという。ドンは後のインタビューで、バンドがこの事実をクレジットしなかったのは気を使っていたからだろうと推測しつつも、報酬は受け取ったことを認め、本作を改めて「素晴らしいアルバムだ、『Painkiller』」と称賛しています。

収録曲

1. PAINKILLER (ペインキラー) - 6:06
2. HELL PATROL (ヘル・パトロール) - 3:36
3. ALL GUNS BLAZING (オール・ガンズ・ブレイジング) - 3:57
4. LEATHER REBEL (レザー・レベル) - 3:34
5. METAL MELTDOWN (メタル・メルトダウン) - 4:50
6. NIGHT CRAWLER (ナイト・クローラー) - 5:44
7. BETWEEN THE HAMMER & THE ANVIL (ビトウィーン・ザ・ハマー・アンド・ジ・アンヴィル) - 4:49 (次曲へフェードアウト)
8. A TOUCH OF EVIL (ア・タッチ・オブ・イーヴル) - 5:44
9. BATTLE HYMN (バトル・ヒム) - 0:56 (インストゥルメンタル、次曲へ繋ぐ)
10. ONE SHOT AT GLORY (ワン・ショット・アット・グローリー) - 6:47

※LP盤では1～5曲目がA面、6～10曲目がB面。

リマスター盤ボーナストラック (未発表音源)

1. LIVING BAD DREAMS (リビング・バッド・ドリームズ) - 5:21 (バンドはなぜ未発表だったか謎とし、名曲になる運命だったと評している)
2. LEATHER REBEL (LIVE) (レザー・レベル - ライブ) - 3:40

演奏メンバー

ロブ・ハルフォード: ボーカル
イアン・ヒル: ベース (レコーディングには体調不良のためほぼ不参加)
K. K. ダウニング: リードギター
スコット・トラヴィス: ドラムス
グレン・ティプトン: リードギター
ドン・エイリー: キーボード (#8)、シンセベース (クレジット表記無し)

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