ペヨーテ

ペヨーテ：神聖なサボテンの謎

ペヨーテ（学名：Lophophora williamsii）は、サボテン科ウバタマサボテン属の植物で、トゲのない小さなサボテンです。アメリカ合衆国南西部からメキシコ中部に自生し、和名では「烏羽玉」と呼ばれます。ペヨーテという名前は、ナワトル語で「青虫」を意味する「ペヨトル」に由来します。これは、サボテン全体に青虫のような産毛が生えていることにちなんでいます。

植物の特徴

ペヨーテは、成長が非常に遅いことで知られています。野生では、地上部分がゴルフボールほどの大きさになり、花を咲かせるまでに約30年もの歳月を要することもあります。栽培された株は成長がやや早いものの、それでも発芽から開花までには6年から10年を要します。成長が遅く、乱獲も深刻なため、野生のペヨーテは絶滅が危惧されています。

ペヨーテの成分と効果

ペヨーテには、メスカリンをはじめとする様々なフェネチルアミン系アルカロイドが含まれています。これらの成分が、幻覚などの精神的な効果をもたらします。特にメスカリンは日本では麻薬に指定されており、使用は推奨されません。

ペヨーテの地上部分を乾燥させたものを噛んだり、煎じて飲むことで効果が得られますが、非常に苦く、吐き気を催すことが多いようです。効果は10〜12時間ほど持続します。適切な環境と心構えで摂取すると、鮮やかな視覚や聴覚の共感覚を体験することがあると言われています。

ネイティブアメリカンとの関わり

ネイティブアメリカンの間では、ペヨーテは伝統的に治療薬や宗教儀式に用いられてきました。アルコール依存症や精神的な問題を抱える人々の治療に役立てられ、ペヨーテの治療効果を期待する場合は、経験豊富な「ペヨーテロー」（シャーマンのような人物）の指導の下で行うことが推奨されています。

かつて、ペヨーテは「万能薬」とみなされ、副作用がないとされていました。しかし、現代の研究では、その薬効や副作用についてより慎重な評価がなされています。一部の研究ではアルコール依存症に対する有効性も示唆されていますが、幻覚作用を持つため、慎重な取り扱いが求められます。

歴史と文化

ペヨーテは、古代からメキシコの先住民によって宗教儀式の一部として使用されてきました。例えば、ウイチョール族は年に一度、原野に赴きペヨーテを採取する「ペヨーテ狩り」を行っています。また、儀式で得た幻覚を、色鮮やかな図柄の織物として表現します。

16世紀の文献には、チチメカ族がペヨーテを常食していたため、強くて勇敢であったと記述されています。また、スペイン人宣教師は、ペヨーテを「悪魔の根」と呼び、その使用を禁じようとしました。

19世紀には、アメリカのネイティブアメリカンが、宗教儀式でペヨーテを使用することが広まりました。彼らはペヨーテを「霊的な癒し」の手段として捉え、その使用は合法化されています。

ネイティブアメリカンチャーチでは、ペヨーテを「霊の薬」と呼び、様々な病気や社会問題と闘うために使います。儀式は「ペヨーテ・ティピー」の中で夜間から明け方にかけて行われ、呪い師がペヨーテを分け与え、参加者はそれを食べたり、お茶にして飲みます。

ペヨーテを巡る現代の状況

アメリカでは、ペヨーテの自生地が減少傾向にあり、白人のディーラーによる乱獲も問題となっています。インディアンたちは、ペヨーテを神聖なものとして扱い、ビジネスの対象とする白人を批判しています。

1994年、アメリカ連邦法はインディアンの信仰の自由に関する法律で、ペヨーテの収穫・売買・所持・消費を、「インディアン民族にのみ」特別に認めています。ただし、栽培は認められていません。

文化的な影響

1970年代には、カルロス・カスタネダの著作『ドン・ファンの教え』によって、ペヨーテへの関心が再燃しました。カスタネダは、ペヨーテの使用を通じて得られる「メスカリト」と呼ばれる存在について言及しましたが、後年、薬物を使用しない方法での「高められた新世界」への到達を提唱しました。なお、カスタネダの著作は、後年の人類学的研究により、フィクションであるとされています。

ペヨーテと著名人

ペヨーテの主成分であるメスカリンは、多くの著名人に影響を与えています。ジェリー・ガルシア、ケン・キージー、カルロス・サンタナ、ハンター・S・トンプソン、ジャン＝ポール・サルトル、エルンスト・ユンガー、レオ・ケニーなどが、その影響を受けたと言われています。