メスカリン

メスカリンとは

メスカリン（3,4,5-トリメトキシフェネチラミン）は、フェネチルアミン系の幻覚剤の一種です。名称は、メスカレロ・アパッチ族が儀式で使用していたことに由来します。メキシコの蒸留酒であるメスカルとは直接的な関係はありません。

1971年の向精神薬に関する条約により国際的に規制されており、日本では麻薬及び向精神薬取締法によって麻薬に指定されています。

概要

メスカリンは、ペヨーテなどの特定のサボテンに含まれる成分です。化学的には硫酸メスカリンとして合成することも可能です。アメリカ大陸の先住民は、サボテンから抽出したメスカリンを古くから使用してきました。アメリカ合衆国では、ネイティブ・アメリカン・チャーチが宗教的な儀式でメスカリンを使用することが認められています。

歴史

メスカリンは、古代からアメリカ大陸の先住民によって利用されてきました。紀元前900年から200年にかけてアンデス山脈で栄えたチャビン文化では、サンペドロ（学名：Echinopsis pachanoi）と呼ばれるサボテンが使用されていたと考えられています。16世紀の文献には、チチメカ族が幻覚作用のあるペヨーテを日常的に摂取し、それによって強さ、勇気、そして守護を得ていると信じていたという記述があります。メキシコのウイチョル族には、ペヨーテを摂取することで現れる、火の神タテワリが与える神話的なヴィジョンを描く文化があります。

19世紀末になると、白人の間でもメスカリンへの関心が高まりました。1886年にドイツの薬学者レーヴィンがペヨーテについて報告し、1891年にはアメリカ合衆国の行政官であるジェームズ・ムーニーが「メスカル」をワシントンに持ち帰りました。その後、医師のプレンティスとモーガンがその効果を報告し、1896年にはアメリカのウィア・ミッチェルがメスカリンを服用し、幻覚体験を報告しました。これらの報告は、イギリスの医学雑誌にも掲載され、精神医学者のハヴェロック・エリスも自己投与実験を行い、その結果を発表しました。メスカリンは1897年にドイツ人化学者アルトゥール・ヘフターによって単離され、1919年にはエルンスト・シュペートによって化学的に合成されました。

20世紀に入ると、ペヨーテの信仰とキリスト教が融合したネイティブ・アメリカン・チャーチがアメリカ西部に広まりました。メスカリンが宗教体験を引き起こすという事実は、民俗学者や宗教心理学者の関心を集めました。

作家のオルダス・ハクスリーは、著書『知覚の扉』（1954年）でメスカリンの体験を報告し、自我の喪失や宇宙との一体感について記述しました。アンリ・ミショーも、『みじめな奇蹟』（1956年）でメスカリン体験を報告し、自我の防壁が壊された感覚について述べています。アレクサンダー・シュルギンは、1960年にメスカリンを体験したことをきっかけに、幻覚剤の研究に没頭するようになりました。

合成

メスカリンは、通常3,4,5-トリメトキシベンズアルデヒドを出発物質として合成されます。

薬理作用

ヒトにおける効果的な摂取量は200～400mgで、効果は最長12時間程度持続します。身体依存性は低いですが、中程度の精神依存性があると考えられています。

薬理作用の機序としては、脳内セロトニン系の抑制やNMDA受容体の抑制が示唆されています。LSDやシロシビンと同時に摂取した場合、交差耐性が生じることがあります。

作用

メスカリンは、主に経口摂取されます。服用後、精神状態が変化し、典型的には視覚的な幻覚が現れます。この状態は「トリップ」と呼ばれます。作用は服用前の状態に左右され、気分の変動や激昂が起こることもあります。快い浮遊感や光輝感を得ることもあれば、不安や抑うつを経験することもあります（バッドトリップ）。

メスカリンやペヨーテの使用は、精神科の薬の処方頻度が低いことと関連があるという調査結果があります。メスカリンによる幻覚は、統合失調症的なものではなく、美しい色の変化や時空間の変化を伴うことが多いとされています。

メスカリンは、以下のような作用を引き起こすことがあります。

快感を伴う副作用
目を閉じたままで創造的な視覚体験が得られる
新しい思考過程
夢のような展開
多幸感
神秘体験
中立的な副作用
散瞳
温感や冷感
不快感を伴う副作用
目眩
嘔吐
頻脈
頭痛
不安
死にそうな、絶滅しそうな感じ
通常の意識に戻れないという不安感

法的位置づけ

メスカリンは、アメリカ合衆国で1970年に非合法化され、1971年の向精神薬に関する条約によって国際的に禁止されるようになりました。日本では、麻薬及び向精神薬取締法における麻薬に指定されています。

ただし、アメリカでは、アメリカ先住民宗教自由法に基づき、ネイティブ・アメリカン・チャーチの儀式でのペヨーテの使用が認められています。

日本においては、メスカリンを含有するサボテンの販売に対する規制はありません。

メスカリンを使用した有名人

エルンスト・ユンガー
レオ・ケニー
ジム・モリソン
カルロス・サンタナ
ハンター・S・トンプソン
ジャン＝ポール・サルトル
オルダス・ハクスリー

参考文献

* 河村錠一郎「ペヨーテ、そして世紀末」『カイエ』第2巻第5号、1979年、88-103頁。

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