ペラム・ハンフリー

ペラム・ハンフリー（Pelham Humfrey）

ペラム・ハンフリーは、1647年にロンドンで生まれ、1674年7月14日にウィンザーでその短い生涯を終えた、イングランド王政復古期初期の重要な作曲家です。わずか27歳という若さで世を去りましたが、当時のイングランド音楽界において「新世代」と呼ばれる作曲家たちの一人として、特にヘンリー・パーセルをはじめとする後進に大きな影響を与えた人物として知られています。

生涯とキャリア

ハンフリーの才能は非常に早熟でした。17歳を迎える頃には、既に彼が作曲したアンセムが宮廷などで演奏され、その実力が広く認められていたことが記録に残っています。このような才能を見出したチャールズ2世の支援を受け、1665年1月頃、彼はフランス・パリへの留学を命じられました。この留学は、当時のイングランド音楽がイタリアやフランスの新しい様式を取り入れようとしていた時代背景の中で行われました。パリでハンフリーは、太陽王ルイ14世のもとで隆盛を極めていたフランス王宮の音楽、特にジャン＝バティスト・リュリに代表されるスタイルから強い影響を受けたと考えられています。

帰国後、ハンフリーはチャペル・ロイヤル（英国王室礼拝堂）の要職に就きました。まず、義父であるヘンリー・クックの後任として、聖歌隊員の少年たちに音楽教育を施す責任者、Master of the Childrenに就任しました。この役職は、将来の宮廷音楽家や教会音楽家を育成する上で非常に重要なポストであり、後のパーセルもここから輩出されています。さらに、彼は宮廷作曲家としても活動を開始し、王室のために数々の楽曲を作曲しました。短い期間ではありましたが、彼はイングランド宮廷音楽の中心的な存在となっていきました。

作品と音楽的特徴

現存するペラム・ハンフリーの作品数はそれほど多くありません。しかし、彼の残した楽曲は、同時代のイングランド音楽には見られないような、鋭敏で革新的な響きと豊かな表現力を備えていると評価されています。特に彼のヴァース・アンセム（独唱と合唱が交互に現れる形式のアンセム）は高く評価されており、代表作とされる『O Lord my God』はその好例です。これらの作品からは、彼がフランス留学で吸収した新しい要素と、イングランドの伝統的な音楽様式を融合させようとした試みが見て取れます。

音楽史上の位置づけ

ハンフリーは、同時代の作曲家マシュー・ロックと共に、パーセル、ジョン・ブロウ、ウィリアム・ターナーといった、後のイングランド音楽を担う重要な作曲家たちに大きな影響を与えました。彼の革新的なスタイルや技術は、これらの後進たちが自らの音楽を築く上で重要な示唆を与えたと考えられています。しかし、彼のキャリアはわずか数年で突然終わりを迎えます。27歳という若さでの死は、イングランド音楽史において大きな損失であり、もし彼が長生きしていれば、パーセルと共にイングランド音楽の発展にさらに多大な貢献をしたであろうと惜しまれています。彼の死は、しばしばイングランド音楽史における「悲劇」として語られます。

人物像

音楽的な功績とは別に、ペラム・ハンフリーの人物像については、著名な日記作家サミュエル・ピープスの記述が残っています。ピープスはハンフリーについて、彼の服装のセンスや振る舞いに関して否定的な見方をしていました。ピープスの日記によれば、ハンフリーは「 little Pelham Humfreyは、恰好・自信・虚栄心に充ち満ちた絶対の若君で、自分以外の人間の技量をばかにした」人物であったと評されています。この記述からは、彼が若くして成功したことによる自信家で、やや傲慢な一面を持っていた可能性がうかがえます。これは当時の宮廷社会における若き才能の振る舞いの一側面を示しているのかもしれません。

まとめ

ペラム・ハンフリーは、短い生涯の中でイングランド王政復古期初期の音楽に新しい息吹をもたらした作曲家です。彼の作品は、その鋭敏さと表現力において高く評価されており、マシュー・ロックと共に、次世代のイングランド音楽を担うパーセルらに決定的な影響を与えました。わずか27歳での早逝は惜しまれますが、彼が残したわずかながらも質の高い作品と、後進への影響力は、イングランド音楽史において重要な足跡として記憶されています。

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