ペルシアの巫女 (ミケランジェロ)

ミケランジェロによる『ペルシアの巫女』

『ペルシアの巫女』（伊: Sibilla Persica, 英: Persian Sibyl）は、ルネサンス期の巨匠ミケランジェロ・ブオナローティが1511年に制作したフレスコ画です。この作品は、ローマ教皇ユリウス2世の依頼により、バチカン宮殿内のシスティーナ礼拝堂の天井画の一部として描かれました。天井画は9つの区画に分かれ、『旧約聖書』の創世記から3つのテーマ、9つの場面が描かれています。『ペルシアの巫女』は、その3番目の区画に位置し、『空と水の分離』の左側に、預言者ダニエルと向かい合う形で描かれています。

作品の詳細

ミケランジェロは天井画において、『旧約聖書』の場面を囲むように、6人の予言者と6人の巫女を交互に配置しました。これらの人物像は、天井画の中で最も大きく、様々な感情や思考を表現するポーズで描かれています。通常、これらの人物像は書物を持ち、2人のプットー（幼い天使）を伴っています。

『ペルシアの巫女』は、小さな書物を読む年老いた女性として描かれています。白い袖の下から見える上腕二頭筋は、驚くほど逞しいです。彼女は近眼であり、祭壇からの光を頼りに、書物に顔を近づけて文字を読もうとしています。美術史家シャルル・ド・トルナイは、ミケランジェロが巫女たちを、異教的な無知のために予言能力が限定されている存在として描いたと指摘しています。この無知は、『ペルシアの巫女』においては、老齢による視力の低下として表現されています。彼女の肩は丸まり、頭を前に傾けており、その姿勢は書物に示された秘蹟に集中していることを示しています。また、彼女の唇は開かれており、聖母マリアの誕生とキリストの到来を予告する言葉を口ずさんでいるかのようです。頭には白いヴェールをかぶり、バラ色の外衣をまとっており、翻った裏地は唯一神の存在を思わせます。彼女に付き添う2人のプットーは、他の人物像とは異なり、着衣して助祭のように恭しく並んでいます。彼らの顔は書物の影で覆われ、衣装は「荘厳ミサ曲」の助祭が着る僧衣を彷彿とさせます。さらに、秘蹟を前にして祈るように両手を組み、『空と水の分離』の場面を見上げています。

特に注目すべきは、巫女の頭部です。ミケランジェロは、顔のフォルムや細部を詳細に描くのではなく、シルエットで暗示するに留めています。しかし、横顔をわずかに画面の奥に向けることで、鼻、唇、顎、瞼、頬、眉毛、額のしわといった細部を、輪郭線によって表現しています。これにより、影に包まれた横顔の表情が、鑑賞者にリアルに伝わってきます。美術史家フレデリック・ハートは、この表現方法が「彫刻的な絵画」ではなく、「本物の彫刻のように見える絵画」を生み出したと述べています。『クマエの巫女』との比較から、その違いは明らかです。後者の横顔は明るく照らされ、光と反射によって細部まで分解されており、平坦な印象を与えます。一方、『ペルシアの巫女』は、ヴェールの光と影のコントラストによって、その姿が空間に存在しているかのように感じられます。ハートは、この作品以降、ミケランジェロの彫刻様式が大きく変化したと指摘しています。

色彩に関しては、他の予言者や巫女と比べて誇張が少ないものの、その柔らかさは増しており、色彩の効果は非常に精妙です。書物の表紙は巫女の外衣を反映し、袖の白い部分は、ヴェールの冷たい白や青色がかった緑灰色の衣服と対照をなしています。この衣服は、光によってかすかに照らし出されています。衣文は天井画の初期の人物像よりも柔らかく流れ、脚の形状も暗示的に表現されています。

修復

1980年から1989年にかけて行われた修復によって、過去の加筆や変色したワニスが除去され、制作当時の色彩が再現されました。

まとめ

『ペルシアの巫女』は、ミケランジェロの卓越した技術と、深い人間洞察が結実した作品です。この作品を通じて、彼は絵画と彫刻の境界を曖昧にし、鑑賞者に新たな視覚体験を与えました。老齢の巫女の姿は、人間の弱さと、それでも真理を求める姿勢を象徴しており、その姿は見る者に深い感動を与えます。

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