ホウ酸

ホウ酸：多様な用途と性質を持つ化合物

ホウ酸（化学式：H₃BO₃またはB(OH)₃）は、無色の結晶または白色粉末状のホウ素のオキソ酸です。温泉水など自然界にも存在し、その多様な性質から、殺菌剤、殺虫剤、医薬品、難燃剤、原子力発電など幅広い分野で利用されています。

ホウ酸の製造

ホウ酸は主に、ホウ酸塩鉱物に硫酸を反応させることで製造されます。世界最大のホウ酸塩産出国はトルコであり、工業生産において重要な役割を果たしています。代表的な反応式は次の通りです。

Na₂B₄O₇・10H₂O + H₂SO₄ → 4H₃BO₃ + Na₂SO₄ + 5H₂O

また、三酸化二[ホウ素]を水に溶解させることでもホウ酸を生成できます。

B₂O₃ + 3H₂O → 2H₃BO₃

これらの方法で得られたホウ酸溶液は、温度による溶解度の違いを利用した再結晶法によって精製され、結晶として分離されます。

ホウ酸の性質

ホウ酸は水に溶解する際に吸熱反応を示し、溶解度は温度に大きく依存します。10℃の水への溶解度は3.65 g/100 mLですが、100℃の水では37.9 g/100 mLと大幅に増加します。

H₃BO₃(s) ⇌ H₃BO₃(aq) ΔH° = 22.01 kJ mol⁻¹

加熱すると[水]]を失い、メタホウ酸(HBO₂)を経て、最終的に酸化[[ホウ素]となります。

H₃BO₃ →[Δ] HBO₂ + H₂O

2HBO₂ →[Δ] B₂O₃ + H₂O

化学式からは3価の酸と予想されますが、水溶液中ではルイス酸として働き、水酸化物イオンと反応して4配位体となります。

H₃BO₃(aq) + H₂O(l) → H⁺(aq) + B(OH)₄⁻(aq) pKa = 9.24

この酸解離定数の小ささから、通常の塩基による中和滴定は困難ですが、エチレングリコールなどの多価アルコールを加えるとエステルを形成し、滴定が可能になります。また、純硫酸に溶解すると硫酸水素イオンと錯体を形成し、強酸として作用します。

H₃BO₃ + 6H₂SO₄ → 3H₃O⁺ + B(HSO₄)₄⁻ + 2HSO₄⁻

ホウ酸の毒性と安全性

ホウ酸は、糖などに由来する[水]]酸基と結合することで、生体内の代謝酵素の機能を阻害します。哺乳類では腎臓で効率的に濾過・排泄されるため毒性は低いですが、昆虫、ダニ、菌類、バクテリアなどには強い殺菌・殺虫効果を示します。[[半数致死量]は約5g/kgです。

ホウ酸は水溶性で揮発性や分解性が低いため、シックハウス症候群の原因とはなりにくいとされています。その特性から、殺虫剤としてだけでなく、木材の防腐防虫剤としても広く利用されています。近年、日本でもその安全性と持続性から注目を集めています。しかし、高濃度では下痢などの消化器症状を引き起こす可能性があり、取り扱いには注意が必要です。植物に対しても、濃度によっては有害となる場合があります。

ホウ酸の用途

ホウ酸は、その多様な性質から、様々な用途に利用されています。主な用途を以下に示します。

殺菌・殺虫剤: ゴキブリ、アリ、シロアリ駆除など
医薬品: 眼科領域での洗浄・消毒剤、目薬の保存料
難燃剤: セルロース繊維、樹脂への添加剤
原子力発電: 熱中性子吸収剤
工業材料: ホウ酸塩ガラス、ガラス繊維、ホウ素系合金鉄の製造
教育: 小学校理科実験での溶解度実験

ホウ酸は、今後も様々な分野で重要な役割を果たしていくと考えられます。ただし、毒性に関する知識を正しく理解し、安全に取り扱うことが重要です。

結晶構造

ホウ酸の結晶は水素結合による層状構造をしており、層間の距離は318 pmです。

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