ホセ・デ・アコスタ

ホセ・デ・アコスタ（José de Acosta, 1540年 - 1600年）は、16世紀のスペインを代表する博物学者であり、同時にイエズス会士として、新大陸アメリカの初期の記録者として重要な足跡を残しました。彼の研究は、地理学、人類学、歴史学など多岐にわたり、当時のヨーロッパ社会に新大陸の知見をもたらす上で重要な役割を果たしました。

生涯

1540年、アコスタはスペインのメディーナ・デル・カンポで、商人の家庭に生まれました。1551年にイエズス会に入会し、その後の人生を修道士として過ごすことになります。1562年には司祭に叙階され、ローマのプラセンシアでイエズス会学院の教授として教鞭を執った後、1571年にペルーへと派遣されました。

1572年4月27日、アコスタはペルーのリマに到着し、その地で1576年にはイエズス会のペルー管区長に就任しました。彼はペルーでの布教活動を指導する傍ら、アレキパ、クスコ、ラパス、ポトシなどの各地を訪れ、原住民への布教活動に力を尽くしました。アコスタは、これらの地域で原住民の文化や生活様式を熱心に観察し、記録に残しました。その探求心は、単なる布教活動にとどまらず、学術的な研究へと繋がっていきました。

1586年には、アコスタはメキシコへと移り、メキシコシティでフアン・デ・トルバに師事し、先スペイン期（ヨーロッパ人が到達する以前の時代）の文化について学びました。1587年にスペインへ帰国した後は、バリャドリードでイエズス会修道院長を、1597年にはサラマンカで学院長を務めました。1600年、サラマンカにてその生涯を閉じました。

著作

アコスタの著作の中で最も重要なものの一つが、1590年に出版された『新大陸自然文化史』（Historia natural y moral de las Indias）です。この著作は、アメリカ大陸の自然、地理、そしてそこに暮らす人々の文化や歴史を総合的に記述したもので、当時のヨーロッパ社会に新大陸の姿を具体的に提示しました。特に、メキシコとペルーの原住民文化に関する記述は、貴重な資料として現在でも高く評価されています。この著作では、アコスタ自身の観察に基づいた詳細な記述と、当時の先住民の視点を取り入れた考察が見られます。また、植物や動物に関する記述も豊富で、博物学的な価値も非常に高いとされています。

もう一つの重要な著作は、1588年に発表された『インディアスにおける福音伝道論』（De procuranda indorum salute）です。この著作では、諸民族の文化圏を分類するという、当時としては非常に革新的な試みがなされています。この分類は、単に地理的な区分にとどまらず、文化、言語、社会構造など、多岐にわたる要素を考慮したもので、その後の社会学や人類学の研究に大きな影響を与えました。この著作は、単なる宗教的な布教に関する議論に留まらず、社会学的な視点からも評価されるべき先駆的な研究として、歴史的な意義を持つと考えられています。

影響と評価

アコスタの著作は、16世紀のヨーロッパ社会に新大陸の知識をもたらす上で、大きな役割を果たしました。彼の研究は、地理学、人類学、歴史学といった幅広い分野に影響を与え、後の学者たちによる新大陸研究の基礎となりました。アコスタの緻密な観察眼と、客観的な記述は、現代においても研究者たちにとって貴重な情報源であり続けています。

参考文献

* 『ラテン・アメリカを知る事典』（大貫良夫監修、平凡社、ISBN 4-582-12625-1）

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