ホソヘリカメムシ

ホソヘリカメムシ

ホソヘリカメムシ（学名：Riptortus pedestris）は、カメムシ目ホソヘリカメムシ科に属する昆虫です。特にダイズなどのマメ科作物の栽培において、収量や品質に影響を与える主要な害虫として知られます。

形態

成虫の腹部には黄色と黒の縞模様がありますが、これは飛翔時に現れ、その姿はハチに似ています。雄は後脚の腿節（太ももにあたる部分）が著しく太く発達しており、内側には棘が並んでいます。幼虫は黒っぽい体色で、頭部と胸部、胸部と腹部の間に顕著なくびれがあり、体型や歩き方を含めてアリによく似ています。本種も他のカメムシと同様に、特有の不快な臭いを発します。

分布

日本では北海道から南西諸島まで広く分布しており、国外では朝鮮半島、台湾、中国、マレー半島などの東アジアから東南アジアにかけて生息しています。

分類名の変遷

分類学上、かつてはRiptortus clavatusという学名が使われていましたが、2005年の再分類により、現在ではRiptortus pedestrisとされています。これにより、Riptortus clavatusはRiptortus pedestrisのシノニム（異名同種）と位置づけられました。

生態

年間の世代数は、生息地の気候によって異なり、日本では地域によって1回から3回世代を繰り返すことが知られています。

卵から孵化した1齢幼虫は餌をとらずに脱皮し2齢幼虫となります。2齢幼虫になると移動を開始し、自力で食草を探します。幼虫は普段は分散していますが、脱皮の直前には集まって脱皮集団を作ります。約20～30日で成虫になります。

成虫は羽化後2～3日で完全に飛翔可能になります。繁殖期には、雄は日照時間が長い条件下で活発に交尾を試みます。雌が食草に集まると、雄はそこを自身の縄張りとし、他の雄との間で争います。この争いでは、特徴的な棘のある後脚を使って相手を攻撃します。

冬期は成虫の姿で越冬します。多くは単独で、草木の根元や落ち葉の下などで寒さをしのぎます。

食草と加害

幼虫、成虫ともに様々なマメ科植物の種子や莢を吸汁して成長します。特にダイズやササゲといった豆類にとって重要な害虫であり、深刻な被害をもたらします。季節に応じて、春にはゲンゲやムラサキツメクサ、夏から秋にかけてはダイズへと餌植物を変えることが知られています。マメ科以外にも、イネ科に付いて斑点米の原因となったり、イチゴ、ナシ、カキ、ゴマ、サツマイモ、ミカン類など、多様な作物を加害することが報告されています。適切な温度があれば、市販の乾燥大豆と水で飼育することも可能です。

共生細菌との関係

多くのカメムシ類と同様、ホソヘリカメムシも体内に特定の共生細菌を宿しています。本種は、中腸にある盲嚢という器官に、ブルクホルデリア属の特定の細菌を共生させています。この細菌は土壌中に存在し、主に2齢幼虫が口から土壌中の細菌を獲得します。この共生細菌は、有機リン系殺虫剤（フェニトロチオンなど）に対する農薬耐性の獲得に関わることが明らかになっています。

集合フェロモンと天敵回避

雄は成虫や幼虫（特に2齢）を集めるための集合フェロモンを放出します。これは特定の化学物質の混合物であり、単一成分だけでは機能しません。親が食草に産卵しないため、2齢幼虫は自力で食草を探す必要がありますが、この集合フェロモンが食草のある場所への重要な道標となります。

ホソヘリカメムシの卵は、カメムシタマゴトビコバチなどの特定の種類の寄生バチに狙われ、卵を産み付けられます。興味深いことに、この寄生バチの雌は、ホソヘリカメムシの雄が放出する集合フェロモンに含まれる特定の成分に引き寄せられます。このことから、ホソヘリカメムシが食草に直接産卵しないのは、集合フェロモンが寄生バチを誘引するリスクを避けるための戦略である可能性が指摘されています。つまり、寄生リスクの高い卵段階は食草から離れた場所で過ごし、寄生の心配が減る幼虫になってからフェロモンを頼りに食草へ移動するという、巧妙な生態と考えられています。

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