ホルン協奏曲 (モーツァルト)
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、ホルンのための協奏曲を複数遺しています。その中でも、今日「ホルン協奏曲第1番」から「第4番」として広く親しまれている4曲は特に重要です。これらに加えて、未完成に終わったいくつかの断章も存在します。
これらの協奏曲は、モーツァルトの親しい友人であり、優れたホルン奏者であったヨーゼフ・ロイトゲープ（1732年-1811年）のために作曲されたと考えられています。ただし、一部作品にはジョヴァンニ・プント（1746年-1803年）への献呈説も唱えられています。
従来、これらの作品は番号順に作曲されたと思われていましたが、近年の研究により、実際の作曲年代順は第2番、第4番、第3番、第1番である可能性が高いとされています。このため、新しい校訂版では伝統的な番号付けは廃止され、ケッヘル番号とともに「ホルンと管弦楽のための協奏曲」と記されるのが一般的です。
興味深い点として、作曲が進むにつれて独奏ホルンパートの技術的な難易度が比較的易しくなる傾向が見られます。作曲初期とされる第2番や第4番では、高いE♭5（実音）など高音域を多用した技巧的なパッセージが多く登場します。これに対し、第3番では高音はC5まで、最後に書かれたと考えられる第1番（ニ長調）ではB♮ 4までしか使われていません。これは、ロイトゲープが演奏家を引退する1792年に60歳を迎えていたことから、加齢による技量の変化をモーツァルトが配慮した結果ではないか、という指摘があります。
これらの協奏曲は、バルブを持たないナチュラルホルンのために書かれました。ナチュラルホルンでは、右手をベルの中に入れる操作（ハンドストッピング）を用いて、音階や半音階を実現します。この奏法は音色に独特のムラを生じさせますが、モーツァルトはこれを計算に入れて作曲したと言われています。
多くの楽章のロンドには「狩りのロンド」という愛称がつけられています。これは、8分の6拍子のリズムが、当時の狩りの音楽を連想させるためです。
ホルン協奏曲第1番 ニ長調 K. 412/514 (386b)
唯一のニ長調作品で、2楽章構成という古典派協奏曲としては珍しい形式をとります。これは、緩徐楽章が未完成に終わったためと考えられています。特に第2楽章のロンドには、モーツァルトによる「初稿」と、弟子のジュースマイヤーが補筆完成させたとされる「改訂稿（ジュースマイヤー版）」が存在します。自筆譜には、モーツァルトがロイトゲープをからかうような書き込みが見られます。また、ジュースマイヤー版にはモーツァルトへの追悼の意を示す旋律が含まれていると言われます。
ホルン協奏曲第2番 変ホ長調 K. 417
3楽章構成。1783年頃の作曲とされ、自筆譜にはロイトゲープへのユーモラスな書き込みがあります。オーボエ2本、ホルン2本を含む編成です。
ホルン協奏曲第3番 変ホ長調 K. 447
3楽章構成。現在では1787年頃の作曲とする説が有力ですが、モーツァルトの自作目録に記載がない点は謎とされています。クラリネット2本を含む編成が特徴的です。4曲の中で最も音楽的に充実していると評されることがあり、第1楽章にピアノ協奏曲第21番との類似が見られる点や、第2楽章がミヒャエル・ハイドンによってホルン五重奏に編曲されたことでも知られます。独奏パートは音域は比較的易しいものの、ハンドストッピングを駆使する難しい音程（B♮ 3など）が含まれます。
ホルン協奏曲第4番 変ホ長調 K. 495
3楽章構成。モーツァルト自身の自作目録には1786年6月26日完成と記されています。この曲には、技術的な難易度を下げた異稿が存在します。自筆譜の一部が現存しており、赤、青、黒、緑の4色のインクが使われている箇所が見られ、その意図については様々な憶測を呼んでいます。
コンサートロンド 変ホ長調 K. 371
1781年作曲とされる、単一のロンド楽章です。独奏パートは完成していますが、伴奏部分は未完成です。1989年に長らく失われていた中間部の自筆譜が発見され、曲の全体像が明らかになりました。
ホルン協奏曲 変ホ長調 K. 370b
1781年頃の単一アレグロ楽章の断章です。譜面が散逸し、全体像の把握が困難な状況です。前記のコンサートロンドと合わせて一つの協奏曲になる構想だった可能性も指摘されています。
* ホルン協奏曲 ホ長調 K. 494a
1785年か1786年に着手されたと思われる、単一アレグロ楽章の断章で、冒頭部分のみが現存します。ホ長調によるホルン協奏曲はこれ以外にありません。
モーツァルトのホルン協奏曲は、ホルン奏者にとって最も基本的なレパートリーの一つであり、演奏・録音の機会が非常に豊富です。特に第3番と第4番は頻繁に演奏されます。
歴史的な録音としては、デニス・ブレインによる1954年の録音が有名です。断章を含む全曲録音は、バリー・タックウェルによる1983年の録音が最初期の試みとして知られています。また、近年では第1番第2楽章の初稿版が演奏される機会が増えています。
これらの曲が本来ナチュラルホルンのために書かれたことから、現代のバルブホルンだけでなく、ナチュラルホルンや古楽器オーケストラによる演奏・録音も盛んに行われています。ヘルマン・バウマンによる1973年の録音は、ナチュラルホルンによる最初の全曲録音として特筆されます。
断章についても、演奏機会は限られるものの、全集録音の際に含まれることがあり、補筆の程度は様々です。K. 370bやK. 494aに大幅な追加作曲を施し、それぞれ「ホルン協奏曲第5番」「第6番」として録音された例もありますが、これは一般的な評価を得ているとは言えません。
モーツァルトのホルン協奏曲は、名手ロイトゲープとの絆や、楽器の特性、作曲技法の工夫など、様々な側面から魅力を持つ重要な作品群です。
これらの協奏曲は、モーツァルトの親しい友人であり、優れたホルン奏者であったヨーゼフ・ロイトゲープ（1732年-1811年）のために作曲されたと考えられています。ただし、一部作品にはジョヴァンニ・プント（1746年-1803年）への献呈説も唱えられています。
従来、これらの作品は番号順に作曲されたと思われていましたが、近年の研究により、実際の作曲年代順は第2番、第4番、第3番、第1番である可能性が高いとされています。このため、新しい校訂版では伝統的な番号付けは廃止され、ケッヘル番号とともに「ホルンと管弦楽のための協奏曲」と記されるのが一般的です。
興味深い点として、作曲が進むにつれて独奏ホルンパートの技術的な難易度が比較的易しくなる傾向が見られます。作曲初期とされる第2番や第4番では、高いE♭5（実音）など高音域を多用した技巧的なパッセージが多く登場します。これに対し、第3番では高音はC5まで、最後に書かれたと考えられる第1番（ニ長調）ではB♮ 4までしか使われていません。これは、ロイトゲープが演奏家を引退する1792年に60歳を迎えていたことから、加齢による技量の変化をモーツァルトが配慮した結果ではないか、という指摘があります。
これらの協奏曲は、バルブを持たないナチュラルホルンのために書かれました。ナチュラルホルンでは、右手をベルの中に入れる操作（ハンドストッピング）を用いて、音階や半音階を実現します。この奏法は音色に独特のムラを生じさせますが、モーツァルトはこれを計算に入れて作曲したと言われています。
多くの楽章のロンドには「狩りのロンド」という愛称がつけられています。これは、8分の6拍子のリズムが、当時の狩りの音楽を連想させるためです。
各協奏曲の特徴
ホルン協奏曲第1番 ニ長調 K. 412/514 (386b)
唯一のニ長調作品で、2楽章構成という古典派協奏曲としては珍しい形式をとります。これは、緩徐楽章が未完成に終わったためと考えられています。特に第2楽章のロンドには、モーツァルトによる「初稿」と、弟子のジュースマイヤーが補筆完成させたとされる「改訂稿（ジュースマイヤー版）」が存在します。自筆譜には、モーツァルトがロイトゲープをからかうような書き込みが見られます。また、ジュースマイヤー版にはモーツァルトへの追悼の意を示す旋律が含まれていると言われます。
ホルン協奏曲第2番 変ホ長調 K. 417
3楽章構成。1783年頃の作曲とされ、自筆譜にはロイトゲープへのユーモラスな書き込みがあります。オーボエ2本、ホルン2本を含む編成です。
ホルン協奏曲第3番 変ホ長調 K. 447
3楽章構成。現在では1787年頃の作曲とする説が有力ですが、モーツァルトの自作目録に記載がない点は謎とされています。クラリネット2本を含む編成が特徴的です。4曲の中で最も音楽的に充実していると評されることがあり、第1楽章にピアノ協奏曲第21番との類似が見られる点や、第2楽章がミヒャエル・ハイドンによってホルン五重奏に編曲されたことでも知られます。独奏パートは音域は比較的易しいものの、ハンドストッピングを駆使する難しい音程（B♮ 3など）が含まれます。
ホルン協奏曲第4番 変ホ長調 K. 495
3楽章構成。モーツァルト自身の自作目録には1786年6月26日完成と記されています。この曲には、技術的な難易度を下げた異稿が存在します。自筆譜の一部が現存しており、赤、青、黒、緑の4色のインクが使われている箇所が見られ、その意図については様々な憶測を呼んでいます。
未完成の断章
コンサートロンド 変ホ長調 K. 371
1781年作曲とされる、単一のロンド楽章です。独奏パートは完成していますが、伴奏部分は未完成です。1989年に長らく失われていた中間部の自筆譜が発見され、曲の全体像が明らかになりました。
ホルン協奏曲 変ホ長調 K. 370b
1781年頃の単一アレグロ楽章の断章です。譜面が散逸し、全体像の把握が困難な状況です。前記のコンサートロンドと合わせて一つの協奏曲になる構想だった可能性も指摘されています。
* ホルン協奏曲 ホ長調 K. 494a
1785年か1786年に着手されたと思われる、単一アレグロ楽章の断章で、冒頭部分のみが現存します。ホ長調によるホルン協奏曲はこれ以外にありません。
実演と録音
モーツァルトのホルン協奏曲は、ホルン奏者にとって最も基本的なレパートリーの一つであり、演奏・録音の機会が非常に豊富です。特に第3番と第4番は頻繁に演奏されます。
歴史的な録音としては、デニス・ブレインによる1954年の録音が有名です。断章を含む全曲録音は、バリー・タックウェルによる1983年の録音が最初期の試みとして知られています。また、近年では第1番第2楽章の初稿版が演奏される機会が増えています。
これらの曲が本来ナチュラルホルンのために書かれたことから、現代のバルブホルンだけでなく、ナチュラルホルンや古楽器オーケストラによる演奏・録音も盛んに行われています。ヘルマン・バウマンによる1973年の録音は、ナチュラルホルンによる最初の全曲録音として特筆されます。
断章についても、演奏機会は限られるものの、全集録音の際に含まれることがあり、補筆の程度は様々です。K. 370bやK. 494aに大幅な追加作曲を施し、それぞれ「ホルン協奏曲第5番」「第6番」として録音された例もありますが、これは一般的な評価を得ているとは言えません。
モーツァルトのホルン協奏曲は、名手ロイトゲープとの絆や、楽器の特性、作曲技法の工夫など、様々な側面から魅力を持つ重要な作品群です。
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