ホレイス・ピピン

ホレイス・ピピン（Horace Pippin, 1888年2月22日 - 1946年7月6日）は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州出身の画家で、その作品は「素朴派」に分類されます。彼の人生は、貧困と人種差別に苦しみながらも、芸術への情熱を燃やし続けた物語です。

生い立ちと初期の生活

ピピンは、ペンシルベニア州ウェストチェスターで、貧しい家庭に生まれ育ちました。奴隷制度廃止後も残る人種差別の中で、彼は厳しい少年時代を送りました。1891年、家族と共にニューヨーク州オレンジ郡のゴーシェンに移住。1903年には15歳で学校を辞め、働きながら未亡人となった母親を支えました。幼少期から絵を描くことに興味を持っていましたが、本格的に美術教育を受ける機会はありませんでした。

戦争と負傷

1911年に母親が亡くなった後、ピピンはニュージャージー州に移り住み、そこで働きました。第一次世界大戦が勃発すると、1917年に陸軍に召集され、フランス戦線へ歩兵として送られました。激戦地で、ドイツ兵の銃弾が右肩を貫通する重傷を負い、その後の人生で障害を抱えることになりました。しかし、彼は戦場にもスケッチブックを持ち込み、戦争の悲惨な場面や兵士たちの姿を記録し続けました。これらのスケッチは、後に彼の初期の絵画作品の重要な題材となります。

画家としての活動

帰国後の1920年、ピピンは結婚し、息子をもうけました。夫婦で洗濯店を営みながら、戦傷年金で生活を支え、絵画制作への情熱を燃やし続けました。1920年代後半から徐々に作品を発表し始め、1930年代後半には美術評論家のクリスチャン・ブリントンや著名なイラストレーターのN.C.ワイエスに注目されるようになりました。彼らの支援を受け、ピピンの作品は多くの展覧会に出品されるようになり、フィラデルフィア美術館などの主要な美術館が作品を購入しました。こうして、彼はアフリカ系アメリカ人の画家として、その名を知られるようになりました。

作品の特徴と評価

ピピンの絵画は、独学で培われた独自のスタイルが特徴的です。彼の作品は、力強い筆致と鮮やかな色彩、そして素朴で温かみのある表現が魅力です。日常生活や家族の肖像、宗教的なテーマ、戦争の場面など、多様な主題を描き、彼の作品は人々に深い感動を与えています。特に、第一次世界大戦の経験に基づく作品は、戦争の悲惨さと人間の尊厳を力強く表現しており、見る者の心を揺さぶります。その独特な画風から、フランスの「素朴派」の画家、アンリ・ルソーと比較されることもあります。ピピンは、美術教育を受けずに独自のスタイルを確立した画家として、アメリカ美術史において重要な位置を占めています。

作品例

以下にピピンの代表的な作品の例をいくつか示します。

「自画像」
「ドミニカ」
「聖なる山」
「ジョン・ブラウンの死」
* 「第一次世界大戦」

これらの作品は、ピピンの独特な視点と表現力が際立っており、彼の芸術的才能を物語っています。

参考文献

ピピンに関する研究は多く、彼の生涯や作品について深く知ることができます。美術史に関する書籍や論文、展覧会のカタログなどを参考に、ピピンの芸術世界を探求してみてはいかがでしょうか。

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