素朴派

素朴派（ナイーヴ・アート）とは

素朴派（そぼくは）、またはナイーヴ・アートとは、19世紀から20世紀にかけて現れた絵画の一つの傾向を指します。この分野の作品は、美術学校などで正式な美術教育を受けていない人々によって制作されたものが中心です。そのため、画家を職業とせず、別の仕事を持つ人々が多いのが特徴です。

概要

素朴派の画家たちは、既存の美術の潮流や技術にあまり関心を持たず、独自の視点と感性で作品を制作します。彼らは何を描くか、つまりモチーフに強いこだわりを持ち、その表現方法も非常に独創的です。一般的に、素朴派の絵画は具象的であり、写実的な描写が中心ですが、一部の画家、例えばセラフィーヌ・ルイやアンリ・ルソーのように、前衛的な要素や幻想的な雰囲気を持つ作品も存在します。また、グランマ・モーゼスのように、晩年になるにつれて作品が深化していく例も見られます。そのため、素朴派の作品を「稚拙」と一概に評価することは適切ではありません。

素朴派の成立

素朴派という概念を確立したのは、画商のヴィルヘルム・ウーデです。彼はアンリ・ルソーの最初の伝記を書き、ルイ・ヴィヴァン、セラフィーヌ・ルイ、アンドレ・ボーシャン、カミーユ・ボンボワといった画家たちを発掘しました。1927年には、これらの画家たちとルソーを含めた「聖なる心の画家」展を企画し、素朴派の画家たちを世に知らしめました。

プリミティヴィスムとの関連

素朴派を語る上で、プリミティブ・アートやプリミティヴィスムという概念は欠かせません。正規の美術教育を受けていない人々による美術、未開の文化の美術はプリミティブ・アートと呼ばれます。これらの芸術は、20世紀の美術界に大きな影響を与え、プリミティヴィスムという潮流を生み出しました。ゴーギャンやルオー、クレー、ピカソ、モディリアーニ、シャガールといった著名な画家たちが、この影響を受けています。しかし、ジャポニスムに比べると、プリミティヴィスムに関する研究はまだ十分とは言えません。

プリミティヴィスムと素朴派の境界は曖昧です。例えば、ゴーギャンは印象派の影響を受け、古典絵画も研究していたため、プリミティブ・アートではなく、プリミティヴィスムの画家と見なされます。一方、ゴッホは精神疾患を抱えながらも独学で絵を描いていましたが、印象派の影響を受けており、伝統絵画も研究していたため、彼をプリミティブ・アートと呼ぶか、プリミティヴィスムと呼ぶかは議論の余地があります。また、ルソーも一見すると正統派美術に関心がないように見えますが、ルネサンス期の画家ウッチェロの影響を受け、絵の具の扱いはプロ顔負けの腕を持っていました。特に黒の表現については、ゴーギャンも絶賛したほどです。このように、素朴派とプリミティヴィスムの境界は非常に曖昧であり、今日でも議論が続いています。

主な素朴派の画家

以下に、素朴派に分類される主な画家とその職業（または活動内容）を記します。

アルフレッド・ウォリス（船具商）
アンドレ・ボーシャン
アンリ・ルソー（税官吏）
オルネオーレ・メテルリ
カミーユ・ボンボワ
アンナ・メアリー・ロバートソン（グランマ・モーゼス）
セラフィーヌ・ルイ
ニコ・ピロスマニ
フェルディナン・デスノス
モード・ルイス
モーリス・ハーシュフィールド
ルイ・ヴィヴァン
ルネ・ランベール
ウィルソン・ビゴー
ベリル・クック
エクトル・イポリット
ドミニク・ペロネ
ホレイス・ピピン
カテリーナ・ヴァシリヴナ・ビロクール
マリア・プリマチェンコ
イヴァン・ジェネラリッチ（クロアチアのガラス絵画家）
イヴァン・ラツコヴィッチ（クロアチアのガラス絵画家）
ヨシップ・ジェネラリッチ（クロアチアのガラス絵画家、イヴァン・ジェネラリッチの息子）

日本では、山下清、谷内六郎、塔本シスコ、丸木スマ、原田泰治、藤田龍児などが素朴派とされることがあります。また、郵便配達夫だったフェルディナン・シュヴァルのように、画家ではないものの、素朴派に分類される人物も存在します。

関連項目

日曜画家
プリミティブ
プリミティブ・アート
プリミティヴィスム
アウトサイダー・アート
フォーク・アート
『セラフィーヌの庭』（セラフィーヌ・ルイの伝記映画）
* ヴィルヘルム・ウーデ

素朴派の芸術は、そのユニークな視点と表現によって、多くの人々を魅了し続けています。

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