ホワイトシップの遭難

ホワイトシップの遭難

ホワイトシップの遭難は、1120年11月25日に発生した悲劇的な海難事故です。この事故により、イングランド王ヘンリー1世の世継ぎであるウィリアム王子をはじめ、多くの王族や貴族が命を落としました。この出来事は、当時のイングランドとノルマンディーに大きな衝撃を与え、その後の歴史にも影響を与えることになります。

事故の経緯

1120年11月25日、ウィリアム王子はイギリス海峡を渡るため、最新鋭の王室艦船であるホワイトシップ号に乗り込み、フランスのバルフルール港を出航しました。父であるヘンリー1世はすでに先発していましたが、ウィリアム王子とその一行は出航前に酒宴を催し、出発が遅れていました。彼らは、ホワイトシップ号が最も速い船であるため、すぐに父王に追いつけると楽観視していたのです。

しかし、その夜、酔った操舵手の操船ミスにより、ホワイトシップ号は湾内の岩礁に激突します。船体を岩から離そうとする試みは失敗し、船は急速に浸水し始めました。ウィリアム王子と数人の側近は救命艇で脱出しようとしましたが、王子の異母妹であるマティルダ・フィッツロイを救助するために船に戻ります。しかし、救命艇に多くの人々が乗り込もうとしたため、定員オーバーとなり沈没してしまいました。

歴史家のヘンリー・オブ・ハンティングダンは、ウィリアム王子の悲劇的な最期について、「刺繍の施されたローブを身に着ける代わりに、波間に裸で漂い、王位を継承する代わりに、海の底で墓標を見ることになった」と記しています。

ウィリアム王子の妻であるマティルドは、難破時には別の船に乗船していたため、難を逃れました。夫の死後、彼女は修道女となり、最終的にはフォントヴロー修道院の修道院長を務めました。

事故の原因は定かではありませんが、貴族たちが宴会を開き、船員たちも一緒に酔っていたことや、船長が出航の遅延を進言したにもかかわらず、王子たちがそれを却下したことなどが指摘されています。

事故の影響

ホワイトシップの遭難は、イングランドの王位継承に深刻な影響を与えました。ヘンリー1世はその後、再婚しましたが、男子をもうけることはできませんでした。そのため、娘であるマティルダ（通称「女帝モード」）を後継者に指名しましたが、ヘンリー1世の死後、マティルダは従兄であるスティーブン（ヘンリー1世の姉の子）と王位を争い、イングランドは無政府状態（アナーキー）に陥ることになります。

この海難事故は、イングランドの運命を大きく変えただけでなく、多数の公子や公女の死は、社会に大きな衝撃を与えました。

フィクションにおけるホワイトシップの遭難

ホワイトシップの遭難は、多くの文学作品のモチーフとなっています。これらの作品では、事故が陰謀によるものとして描かれたり、生き残った船員が数奇な運命をたどる物語が展開されたりします。例えば、ケン・フォレットの小説『大聖堂』（1989年）などがその例です。

ホワイトシップの遭難は、単なる海難事故としてだけでなく、その後のイングランドの歴史を大きく左右した出来事として、記憶されるべきでしょう。

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