ホワルダイト

概要

ホワルダイトは、石質隕石の中に位置づけられるエイコンドライト（非コンドライト）の一分類です。エイコンドライトは、コンドライトのようなコンドルール（球粒）や金属粒をほとんど含まない隕石群で、惑星や小惑星の内部で分化や融解を経て形成されたと考えられています。ホワルダイトはその中でも、特定の小惑星の地表物質が固まった特別なタイプの隕石です。約200個のサンプルが科学的に確認されており、時にはハワーダイトとも呼ばれることがあります。

起源と関連

ホワルダイトの起源は、火星と木星の間に存在する小惑星帯の中でも特に大きな天体である小惑星ベスタの地表面に求められています。ホワルダイトは、ベスタ起源とされる他のエイコンドライト、すなわちユークライトとダイオジェナイトと共に、「HED隕石群」として分類されます。ユークライトはベスタの地殻に、ダイオジェナイトはベスタのマントルに由来すると考えられており、ホワルダイトはこれら地殻やマントル起源の物質が、天体表面での衝突によって混合・再堆積したものです。これは、月隕石が月の地表物質に由来するのと類似した状況と言えます。

顕微鏡下の世界：ホワルダイトの特徴

ホワルダイトの最も際立った特徴は、レゴリス角礫岩であるという点です。レゴリスとは、天体の地表に降り注ぐ微小隕石や高速の粒子衝突によって砕かれた岩石や鉱物の破片、ガラス質などが堆積してできた、砂や塵、礫の混じった層を指します。地球の月の表面も厚いレゴリス層に覆われています。ホワルダイトは、このレゴリスが自然の圧力や熱によって固結し、岩石となったものです。

その主成分は、HED隕石群の他のメンバーであるユークライトとダイオジェナイトの微細な破片です。ユークライトは、輝石と斜長石を主成分とする玄武岩質のエイコンドライトで、ベスタの地殻を構成すると考えられています。一方、ダイオジェナイトは、頑火輝石を主成分とする岩石で、ベスタのマントル起源と考えられています。ホワルダイトは、これら異なる岩石タイプの破片がランダムに混じり合って固まった構造を示します。

構成要素として、ユークライトやダイオジェナイトの破片が大部分を占める一方で、非常に珍しいケースとして、炭素質のコンドライト起源の物質や、衝突による溶融を経てできたガラス質なども観察されることがあります。これは、ベスタに衝突した他のタイプの隕石の成分が、レゴリス形成の過程で混入したことを示唆しています。

形成のメカニズム

ホワルダイトの形成は、小惑星ベスタの表面で繰り返し発生する衝突現象と深く関わっています。小惑星の表面に降り注ぐ様々なサイズの衝突体によって、地表の岩石は絶え間なく粉砕され、レゴリスが生成されます。さらに大きな衝突が発生すると、このレゴリス層やその下の岩石が掘り起こされ、周囲に撒き散らされます（衝突噴出物）。これらの噴出物が再び地表に堆積し、その上に新しい層が積み重なることで、下の層には大きな圧力がかかります。長い時間をかけて、この圧力と、衝撃による熱などが作用し、レゴリスの粒子同士が固く結合し、ホワルダイトのような角礫岩が形成されると考えられています。

このようなレゴリス角礫岩は、厚い大気や活発な地質活動によって地表が常に変化している地球のような天体では形成されません。レゴリスが存在し、それがそのまま保存されて固まるためには、大気がほとんどなく、かつ大規模な地質活動が停止している天体環境が必要なのです。そのため、ホワルダイトのような隕石は、宇宙空間の天体表面におけるユニークな地質プロセスを理解する上で非常に重要なサンプルとなります。

分類とその境界

HED隕石群の中でも、ホワルダイトはポリミクト・ユークライトという別の分類と構造が似ています。ポリミクト・ユークライトも、ユークライトの破片を主としつつ、少量のダイオジェナイトや炭素質コンドライト成分を含む角礫岩です。ホワルダイトとポリミクト・ユークライトを厳密に区別する明確な物理的境界は存在しませんが、一般的な定義として、含まれるダイオジェナイト成分の比率が用いられます。概ね、全体の組成のうち、ユークライト成分に対するダイオジェナイト成分の割合が10%を超える場合、ホワルダイトに分類されることが多いとされています。つまり、ホワルダイトはユークライトとダイオジェナイトの両方の特徴を比較的多く含むレゴリス角礫岩、ポリミクト・ユークライトはユークライト成分が支配的で、ダイオジェナイト成分が少ない角礫岩、という区別がなされています。

名前の由来

ホワルダイトという名称は、19世紀のイギリスの化学者であり、隕石研究のパイオニアであったエドワード・ハワード（Edward Howard, 1774-1816）に敬意を表して命名されました。ハワードは、隕石の化学組成を詳細に分析し、地球上の岩石とは異なるニッケル鉄合金が含まれることを発見するなど、隕石が地球外から飛来したものであるという説を化学的な根拠をもって強く支持した初期の研究者の一人です。彼の功績を称え、この特徴的な隕石にその名が冠されました。

まとめ

ホワルダイトは、小惑星ベスタの地表で形成されたレゴリスが固まった、エイコンドライトに属する珍しい角礫岩隕石です。主にユークライトとダイオジェナイトの破片から構成され、その特徴的な構造は、大気のない天体表面での衝突プロセスと堆積、そしてその後の固結作用によって生じます。地球では見られないこのタイプの隕石は、小惑星の地質史や、レゴリス環境における物質の挙動を理解する上で貴重な情報源となっています。その名は、初期の隕石研究に貢献したエドワード・ハワードに由来しており、学術的な重要性と発見の歴史を物語っています。

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