エイコンドライト

エイコンドライトは、宇宙空間を漂う岩石の中で、地球に落下してきた「隕石」の一種です。中でも、鉱物組成や構造がケイ酸塩岩石に富む「石質隕石」に分類されます。石質隕石は、直径1mm程度の球状粒子である「コンドリュール」を含む「コンドライト」と、このコンドリュールを含まない「エイコンドライト」に大きく分けられます。エイコンドライトという名称は、「コンドリュールがない」という意味に由来します。

特徴と形成過程

エイコンドライトの大きな特徴は、その組織や構造、そして鉱物組成が、地球上で見られる玄武岩質岩石などと非常によく似ている点です。これは、エイコンドライトが形成された母天体において、融解や再結晶といった地質学的なプロセス、すなわち「変成作用」を様々な度合いで受けたことを示しています。

未分化な物質からなるコンドライトとは異なり、エイコンドライトの母天体は、太陽系形成初期に熱的な変成を受け、物質が分離・分化しました。マグマが生成・固化したり、既存の岩石が再結晶したりすることで、多様な火成活動の痕跡が刻み込まれています。そのため、エイコンドライトには、融解の度合いや火成作用の種類によって、様々なテクスチャーや鉱物組み合わせを持つものが存在します。

希少性と起源

エイコンドライトは、地球に落下する隕石全体の中で比較的に希少であり、その割合は約8%程度と見積もられています。

エイコンドライトの起源となる天体は多岐にわたります。最も多いのは、小惑星帯に位置する小惑星ベスタと考えられており、エイコンドライト全体の約3分の2を占める「HED隕石」がそれに該当します。HEDはホワルダイト（Howardites）、ユークライト（Eucrites）、ダイオジェナイト（Diogenites）の頭文字をとった名称で、ベスタ表面での衝突やマグマ活動によって形成された岩石が起源です。

その他にも、火星から飛来した「火星隕石」（SNC隕石）や、月面からの「月起源隕石」など、地球以外の惑星や衛星に由来するものも確認されています。これら具体的な起源天体の特定は、含まれる鉄（Fe）とマンガン（Mn）の化学成分比や、酸素同位体（特に17O/18O比）の精密な分析によって行われます。特定の天体には固有の同位体比の「指紋」があり、隕石のそれを比較することで、どの天体から来たのかを突き止めることができるのです。

主な分類グループ

エイコンドライトは、その起源天体や岩石学的特徴に基づいて、いくつかの主要なグループに分類されています。

原始的エイコンドライト (Primitive Achondrites, PAC group)：完全に融解・分化する前の段階で形成されたと考えられているグループです。コンドライトに近い性質を残しつつ、ある程度の変成を受けています。アカプルコタイト、ロドラナイト、ブラチナイト、ウィノナイト、ユレーライトなどが含まれます。ユレーライトは炭素を多く含むなどの特徴を持ちます。

小惑星エイコンドライト：小惑星起源の、より高度な分化を経たエイコンドライトです。前述のベスタ起源のHED隕石群（ホワルダイト、ユークライト、ダイオジェナイト）が代表的です。HED隕石は、ベスタ表面で発生したマグマの活動によって形成された玄武岩や斑れい岩、それらが衝突によって混じり合った角礫岩など、多様な岩石タイプを含みます。その他、マグネシウムに富む輝石からなるオーブライトや、カルシウムやアルミニウムに富むアングライトなどもこのグループに含まれます。

月起源隕石 (Lunar Meteorites)：文字通り、月を起源とするエイコンドライトです。月の表面に他の隕石が衝突した際に飛び散った岩石が、地球の引力に捕らえられて落下したものです。月の高地や海を起源とする衝撃角礫岩、あるいは月の玄武岩などが含まれます。

火星隕石 (Martian Meteorites, SNC group)：火星を起源とするエイコンドライトです。火星の表面に他の天体が衝突した際に放出された岩石が地球に飛来したものです。主なタイプとして、火星の火山岩であるシャーゴッタイト、ナクライト、シャシナイトがあり、これらの頭文字をとってSNC隕石とも呼ばれます。また、特に古い時代に形成されたと考えられているOPX火星隕石（例：ALH 84001）も含まれます。

まとめ

エイコンドライトは、コンドライトのような太陽系初期の未分化物質とは異なり、母天体で地質学的なプロセスを経た岩石です。その多様な特徴と、ベスタ、月、火星といった具体的な起源天体の存在は、それぞれの天体の形成史や内部構造、進化の過程を探る上で極めて貴重な手がかりとなります。エイコンドライトの研究は、地球を含む惑星の誕生や進化の謎を解き明かす上で、重要な役割を果たしています。

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