ホンダ・ジュノオ

ホンダ ジュノオ：戦後スクーターブームとホンダの挑戦

本田技研工業は、戦後日本のスクーターブームの中で、1954年（昭和29年）に「ジュノオ（JUNO）」を発売しました。ローマ神話の女神ジュノーにちなんで名付けられたこのスクーターは、当時のホンダの技術力と野心を象徴するモデルと言えるでしょう。

ジュノオKシリーズ：FRPボディと全天候型への挑戦

1954年1月に発売された初代Kシリーズは、65.0 x 57.0 mm、189ccの強制空冷4ストロークOHV単気筒エンジンを搭載。最高出力は7.5ps/4,800rpmと、当時のスクーターとしては高性能でした。トランスミッションは3段マニュアル、始動方式はセルフ式を採用するなど、先進的な技術が投入されています。

ボディには軽量化のためにFRP（繊維強化プラスチック）を採用し、アクリル樹脂製の大型ウインドシールドを装備。さらに、オプションで雨よけ用のルーフも用意するなど、全天候型スクーターを目指した設計が特徴でした。全長2,070mm、全幅800mm、全高1,025mmと、ライバル車よりも大型で170kgという乾燥重量は、取り回しやパワー不足という課題も抱えていました。

販売不振を受け、シリンダー内径を拡大した220ccエンジンを搭載するKA型や、軽量化を図ったKB型も追加発売されましたが、1955年には生産終了。総生産台数は5,856台でした。

ジュノオMシリーズ：水平対向2気筒エンジンと無段変速機

1961年、ホンダはスクーター製造を再開し、ジュノオの車名も復活させました。MシリーズではM80とM85の2モデルが生産されました。

M80は、124ccの空冷4ストロークOHV水平対向2気筒エンジンを搭載。最高出力は11ps/9,000rpmを達成しました。注目すべきは、バダリーニ式油圧作動無段変速機HRDを採用していた点です。

M85は、排気量を169ccに拡大し、最高出力12ps/9,000rpmを実現。こちらもバダリーニ式無段変速機を搭載していました。両モデルとも、前輪直後に縦置きされた水平対向2気筒エンジンが特徴的でした。さらに、油圧式タペットクリアランス調整機構、12ボルト電装、電磁ポンプ式燃料供給など、当時の技術粋を集めた豪華装備が魅力でした。

しかし、Mシリーズも販売不振により1964年に生産終了。総生産台数は5,880台でした。

ジュノオの成功と失敗：後のホンダ製品への影響

ジュノオK、M両シリーズは、当時のスクーターとしては画期的な試みを取り入れた豪華なモデルでした。しかし、冷却不良、重量過大、高価格などの問題を抱え、販売は伸び悩みました。その結果、ホンダは経営的に大きな打撃を受けました。

ジュノオの失敗は、ホンダのスクーター生産に長期間の空白をもたらしました。4ストロークエンジン搭載スクーターの再開は1982年（昭和57年）のスペイシーまで19年もかかっています。

しかし、ジュノオで培われた技術やデザインコンセプトは、後のホンダ製品に大きな影響を与えました。FRPボディはスーパーカブC100、屋根付き全天候型スクーターはジャイロキャノピーやキャビーナ、油圧式無段変速機はDN-01などに受け継がれています。ジュノオは、ホンダの歴史において成功と失敗の両面を象徴する、重要なモデルと言えるでしょう。

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