ホンダ・ボーカル

ホンダ・ボーカルとタクトアイビー：4ストローク時代の先駆け

1980年代、日本のバイクブームの中、本田技研工業は画期的な原付スクーター、ボーカルとタクトアイビーを発売しました。当時のスクーターは2ストロークエンジンが主流でしたが、これらのモデルは燃費、静粛性、耐久性に優れる4ストロークエンジンを採用した点が大きな特徴です。

時代の先を行く4ストロークエンジン

ボーカルとタクトアイビーは、低床バックボーンフレームを採用したステップスルータイプのスクーター。49ccの空冷4ストロークSOHC単気筒エンジンを搭載することで、低コストでありながら高出力と軽量化を実現しました。これは、当時主流だった2ストロークエンジンとは一線を画す挑戦的な試みでした。

ボーカル (AF04)：先進技術の結晶

1983年7月に発売されたボーカル(AF04)は、スペイシー50のエンジンをベースに、スーパカブC50で実績のあるエコノパワー技術を応用。最高出力4.0ps/7,000rpm、最大トルク0.43kg-m/6,000rpmを達成し、30km/h定地走行テストで130km/Lという驚異的な燃費を記録しました。オートチョーク式セルフスターターと、自己放電が少ないカルシウムバッテリーも搭載。年間販売目標は12,000台でした。姉妹車であるタクト(AB07)のモデルチェンジに伴い、1984年には生産終了となりました。

タクト アイビー (A-AF13)：進化した4ストローク

1986年4月に発売されたタクトアイビー(A-AF13)は、ボーカルの後継モデルと言える存在です。エンジンはAF13E型に改良され、低中速トルクを強化するためロングストローク化（内径x行程=35.8×49.5mm）が図られました。最高出力は4.1ps/7,500rpm、最大トルクは0.45kg-m/6,000rpmに向上。燃費は30km/h定地走行テストで100.4km/Lでした。燃料タンク容量は4.0Lから3.6Lに変更され、始動方式はセルフとキック併用のタイプとなりました。年間販売目標は40,000台でした。1987年、姉妹車であるタクト(A-AF09)のモデルチェンジに伴い生産終了となりました。

ホンダの戦略と4ストロークエンジンの復活

ボーカルとタクトアイビーは、姉妹車であるタクトシリーズと多くの部品を共有していました。これらのモデルは、1987年以降、本田技研工業の原付スクーターがすべて2ストロークエンジン搭載車となる中で、4ストロークエンジンの可能性を示したモデルと言えます。その後、本田技研工業は1997年に二輪車エンジン4ストローク化方針を発表し、1999年にはジョルカブ、ジョルノクレアといった4ストロークエンジン搭載の原付スクーターを発売。ボーカルとタクトアイビーは、この4ストロークエンジン復活の礎を築いたモデルと言えるでしょう。

共通の仕様

ボーカルとタクトアイビーは、以下の共通仕様を持っていました。

ステップスルータイプの車体
49ccの排気量
空冷4ストロークSOHC単気筒エンジン
前輪ボトムリンク式、後輪ユニットスイングサスペンション
前後ドラムブレーキ
2.75-10サイズのタイヤ
Vベルト無段変速機
CDI点火装置

これらのモデルは、時代の先を見据えた技術と、コストパフォーマンスの高さで、当時多くのライダーに支持されたことは間違いありません。4ストロークエンジン搭載スクーターの歴史において、重要な位置を占めるモデルと言えるでしょう。

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