ホーリーローマンエンペラー

ホーリーローマンエンペラー：クラシックへの夢から種牡馬への転身、そして成功

ホーリーローマンエンペラーは、2006年にフランスで最優秀2歳馬の称号を獲得した名馬です。その名のとおり、「神聖ローマ皇帝」を意味するこの馬は、ヨーロッパの競馬界で大きな注目を集めました。半兄には、日本で活躍したビッグバイキングもいます。

2006年の活躍は目覚ましく、芝1400メートルのジャン・リュック・ラガルデール賞をレコードで制覇するなど、7戦4勝という優秀な成績を残しました。特にフィーニクスステークスとレイルウェイステークスでの勝利は、その才能の高さを証明しています。ライバルとして常に意識されたのは、テオフィロでした。ナショナルステークスとデューハーストステークスでは、惜しくも2着に敗れましたが、その接戦ぶりは、当時の競馬ファンの記憶に強く刻まれていることでしょう。

2007年には、テオフィロと共にヨーロッパクラシックの有力候補として期待されましたが、運命の歯車は大きく動きます。当時、種牡馬入りが予定されていたジョージワシントンに生殖能力の問題が発見されたのです。クールモアスタッドは、この事態に対応するため、急遽ホーリーローマンエンペラーの種牡馬入りを決定。いわばジョージワシントンの「代役」として、現役引退という衝撃的な展開を迎えたのです。

ジョージワシントンは、アメリカ合衆国から専門医を招いて検査を受けた結果、種牡馬入りは見送られ、2007年6月に競走に復帰しました。しかし、同年10月のブリーダーズカップ・クラシックで故障、予後不良という悲しい結末を迎えました。

この出来事の背景には、両馬の父であり、世界的に名高い種牡馬であったデインヒルの急死（2003年）が大きく影響していると考えられます。デインヒルの急死は、世界中でその優秀な遺伝子を受け継ぐ種牡馬を探し求める動きを加速させました。ホーリーマンエンペラーの急遽の引退劇も、デインヒルの後継馬探しという世界的な流れの中で起こった出来事だったと言えるでしょう。その突然の引退に、調教師のエイダン・オブライエン師も大きな落胆を隠せない様子だったと伝えられています。他にも、ロックオブジブラルタルなど、競走馬としての絶頂期に種牡馬入りした例はありますが、ホーリーローマンエンペラーのケースも、その一つとして記憶されています。

種牡馬としてのホーリーローマンエンペラーは、2010年に初年度産駒がデビュー。当初は期待されたほどの活躍は見られませんでしたが、2012年、Homecoming Queenが1000ギニーを9馬身差で圧勝し、産駒初のG1制覇を成し遂げました。この勝利は、ホーリーローマンエンペラーの種牡馬としての真価を示す大きな転機となりました。

その後も、北半球、南半球を問わず、多くの活躍馬を輩出しています。代表的な産駒として、香港で活躍したBeauty Only、Designs On Rome、ニュージーランド、オーストラリアで活躍したMongolian Khanなどが挙げられます。その他にも、Homecoming Queen、Morandi、Rich Tapestry、Rollout The Carpet、Well Timed、Rockemperorなど、世界各地のG1競走で勝利を収めた馬が数多くいます。

さらに、母父としてもその能力を発揮しており、Newspaperofrecord、Porta Fortuna、Shale、Verbal Dexterityなど、数々の活躍馬を輩出しています。日本で活躍したダノンマッキンリーもその一つです。

血統面においては、日本で供用された種牡馬、スマコバクリークやシアトルヒーローとはいとこ同士という関係にあります。

ホーリーローマンエンペラーの物語は、競走馬としての輝かしい実績、そして種牡馬として後世にその血統を残すという、大きな成功を収めた一頭の競走馬の生涯を示しています。彼の急遽の引退劇は、世界的な競馬界の事情と、種牡馬の重要性、そして父デインヒルの偉大さを改めて認識させる出来事だったと言えるでしょう。

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