ボスニア教会

ボスニア教会：中世ボスニアの独自なキリスト教

ボスニア教会は、中世ボスニアに存在したキリスト教の一派です。ローマ・カトリック教会や東方正教会とは独立した独自の教会であり、両教会からは異端と見なされていました。信者たちは自らを「クルステャニ（キリスト教徒）」または「ドブリ・ボシュニャニ（善良なボスニア人）」と呼んでいました。

歴史的背景

9世紀、ローマとコンスタンティノープルの教会がバルカン半島で布教活動を展開し、両教会の勢力範囲が形成されました。クロアチアはカトリック、セルビアは正教会の影響下に入りましたが、ボスニアの山岳地帯は両教会の影響が及びにくく、独自の教会が発展する土壌となりました。この地域は名目上カトリックの管轄でしたが、教会組織が弱く、独自の活動を行っていました。ボスニア教会は、カトリック教会の勢力範囲を侵食し始め、ボスニア司教は地元で選出され、教皇庁のラテン語ではなく教会スラヴ語を使用し続けました。

周辺諸国との抗争

12世紀末、セルビアの支配者ヴカン・ネマニッチは、ボスニアが異端化しているとローマ教皇に訴えました。ボスニアの統治者クリンが異端に改宗したと非難されたため、クリンは教皇への帰順を表明し、ハンガリーの介入を阻止しました。しかし、この「棄教」は、実際には典礼の誤りによるものであったとされています。その後も、ハンガリーはボスニアを支配しようとしましたが、クリンによってかわされました。1225年、教皇はハンガリーにボスニア十字軍を勧めましたが、これも失敗に終わりました。

1252年、教皇インノケンティウス4世は、ボスニアの聖職者をハンガリーの管轄下に置くことを決定し、これによりボスニア教会が完全に独立しました。多くの学者がボゴミル派の影響を指摘してきましたが、近年では、ボスニア教会にはそれらの異端教会との関係の痕跡は見られないという見解が有力です。

教会の衰退と消滅

13世紀には、ボスニア教会はカトリック教会と共存していました。しかし、その勢力は徐々に衰退し、オスマン帝国によるボスニア征服によって消滅しました。一部の歴史家は、1463年のオスマン帝国侵攻時にはすでにボスニア教会はほとんど消滅していたと考えています。

外部からは、ボスニア教会はマニ教やパウロ派の影響を受けた二元論的なボゴミル派と関連付けられて糾弾されました。しかし、ボスニア教会の信者は迫害を逃れるためイスラム教に改宗し、現代のボシュニャク人を形成したと考えられています。

組織と特徴

ボスニア教会は、正教会と同様に典礼にスラヴ語を用いました。教会の長は「djed（祖父）」と呼ばれる司教であり、「strojnici」と呼ばれる12人制の評議会が存在しました。僧は「krstjani」と呼ばれ、一部は「hiže」と呼ばれる小さな僧院に住み、その他は放浪生活を送っていました。ボスニア教会は、各地に散らばる僧院によって構成され、世俗には葬式においてのみ関与していました。例外的に、ボスニア王スチェパン・オストヤはボスニア教会司教を顧問として宮廷に置き、教会の長老を仲裁者として活用しました。

フヴァル文書

1404年にボスニア・キリル文字で記されたフヴァル文書は、ボスニア教会の重要な史料であり、カトリックの教義にそぐわないイコンが掲載されています。ボスニア教会の文書は、グラゴル時代の教会の本を基礎としています。

研究

中世ボスニアのキリスト教は、長年にわたり歴史家の関心を集めてきました。初期の研究では、ボスニア教会がグノーシス主義やマニ教的な傾向を持っていたと主張されました。しかし、近年では、ボスニア教会が正統教義にかなっており、東西教会分裂以前のキリスト教の特徴を多く残した教会であったとする説も支持されています。ジョン・ファインは、ボスニア教会と二元論の関係を否定し、ボスニア教会の近くに別の異端が存在したと主張しています。

ボスニア教会の歴史は、中世の宗教と政治が複雑に絡み合った、興味深い事例と言えるでしょう。

参考文献

Stoianovich, Traian (2015). Balkan Worlds: The First and Last Europe. Routledge.
Fine, John Van Antwerp, Jr. (1991). The Late Medieval Balkans: A Critical Survey from the Late Twelfth Century to the Ottoman Conquest. Michigan: University of Michigan Press.
Fine, John Van Antwerp (1975). “The Bosnian Church: a new interpretation: a study of the Bosnian Church and its place in state and society from the 13th to the 15th centuries”. East European Quarterly 10.
Fine, John Van Antwerp, Jr. (1994). The Late Medieval Balkans: A Critical Survey from the Late Twelfth Century to the Ottoman Conquest. Michigan: University of Michigan Press.
* Lambert, Malcolm D. (1977). Medieval heresy: popular movements from Bogomil to Hus. Holmes & Meier Publishers

もう一度検索