ボゴミル派

ボゴミル派とは

ボゴミル派は、10世紀半ばから14世紀末にかけて、ブルガリアを中心にバルカン半島で信仰されたキリスト教の一派です。この宗派は、善悪二元論と現世否定という独特の思想を掲げ、正教会からは異端とみなされました。

10世紀中頃、ブルガリアの司祭ボゴミルによって創始されたとされています。当初、ボゴミル派は東ローマ帝国への抵抗運動と結びつき、一部地域では正統派を凌ぐ勢力を持つようになりました。しかし、帝国の衰退とブルガリアがオスマン帝国の支配下に入ると、イスラム教の影響を受け、ボゴミル派からイスラム教に改宗する者も現れ、次第に衰退していきました。

また、ボゴミル派は、フランスのカタリ派（アルビジョワ派）に影響を与えたという説も存在します。

独自の神話

ボゴミル派は、独特の創造神話を説いています。それによれば、真の神には二人の息子、サタナエルとミカエルがいました。しかし、サタナエルは神に反逆し、サタン（悪魔）となりました。この世界は、サタンが神に対抗するために創造したとされています。人間の魂は神によって創られましたが、肉体はサタンによって混沌から作り出されたとされます。

ミカエルは、後にイエス・キリストとして地上に現れました。これは、人間が神を崇拝するようにするための約束に基づくものでしたが、サタンはその約束を破り、人間が自分を神と崇拝するように仕向けた、とされます。この旧約[[聖書]]の神（ヤハウェ）こそがサタンであると、ボゴミル派は主張しました。

教義

ボゴミル派の教義は、マニ教的な善悪二元論に基づいています。人間の魂は、悪しき肉体に拘束されており、この世の物質的なものは全て悪魔（サタナ）によって作られたと捉えられています。そのため、救済を得るためには、全ての物質的なものを否定しなければならないとされました。

具体的には、結婚、肉欲、飲酒、肉食、教会の秘蹟など、地上の物質的なもの全てが否定されました。この点において、ボゴミル派はグノーシス主義の影響を強く受けていると考えられます。

聖像や十字架なども物質的なものとして忌避され、東方正教会や東ローマ帝国などの聖俗の既成権力も悪魔に由来するものとして否定されました。旧約[[聖書]]も悪魔の所産として否定し、キリストの受肉も否定し、仮現説に近い教義を持っていました。

ボゴミル派の特異性

ボゴミル派は、既存のキリスト教の教義とは大きく異なる独自の思想を持っていました。特に、旧約[[聖書]]の神を悪魔とする考え方は、他の宗派には見られない特徴です。また、物質的なものを徹底的に否定し、禁欲的な生活を重視する点も、特筆すべき点です。

関連事項

グノーシス主義: ボゴミル派の教義に影響を与えたとされる思想。
モルモン教: 初期教理において、イエスとサタンが霊的な兄弟とされていた点が、ボゴミル派の神話と類似性を持つ。

参考文献

ディミータル・アンゲロフ 『異端の宗派　ボゴミール』 恒文社 1989年、ISBN 4770407122
ユーリー・ストヤノフ 『ヨーロッパ異端の源流―カタリ派とボゴミール派』 平凡社 2001年、ISBN 4582707130

外部リンク

Anna Comnena's The Bogomils
Entry of Slavs Into Christendom
Raoul Vaneigem, The Resistance to Christianity
Christian Dualist Heresies in the Byzantine World C.650-C.1450
L. P. Brockett, The Bogomils of Bulgaria and Bosnia - The Early Protestants of the East
Đorđe Ćapin, Myth about Bogomils

まとめ

ボゴミル派は、キリスト教の異端として知られていますが、その独特な神話や教義は、中世ヨーロッパの宗教史を理解する上で重要な要素です。その影響は、後のカタリ派にも及んだと考えられています。彼らの思想は、既存の権威や価値観に対する挑戦であり、歴史の中で多様な解釈を生み出してきました。

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