ボトルネック自由国

ボトルネック自由国：幻の独立国家

ボトルネック自由国（Freistaat Flaschenhals）は、第一次世界大戦後の1919年から1923年まで存在した、ドイツの特異な地域です。連合国によるラインラント占領という国際情勢の狭間で生まれた、この「自由国」の歴史を紐解きます。

成立の背景

第一次世界大戦後、休戦協定に基づき、連合国はライン川左岸地域を占領しました。アメリカ軍はコブレンツ、フランス軍はマインツに橋頭堡を築き、それぞれの拠点から半径30km圏内を管理下に置きました。しかし、コブレンツとマインツの中間に位置するライン渓谷の一部地域は、占領地域から除外されました。この地域は、ロルヒ、カウプなどを含むライン川沿いの狭い地域で、行政区分上はラインガウなどの郡に属していましたが、郡庁所在地が占領地域にあったため、行政機能が麻痺してしまったのです。この空白地帯を行政的に管轄するため、リンブルク郡がその役割を担うことになりました。

経済的孤立と自立への模索

ボトルネック自由国の最大の問題は、その地理的形状からくる経済的孤立でした。細長い地域であるため、外部との交通路はすべて占領地域を通過する必要があったのです。道路は封鎖され、鉄道は通過を拒否、水運や空輸も利用できない状況下で、食料や燃料などの生活必需品の多くは、密輸などの非合法な手段でしか手に入りませんでした。暖房用の石炭を確保するために、ルール地方からフランスへ向かう石炭輸送列車を襲撃し、脱線させるという強硬手段もとられました。

このような状況下で、ロルヒの町長であり、リンブルク県知事から行政権を委任されていたエドムント・アントン・プニスチェクは、住民の生活を守るために奔走します。彼は、独自の紙幣（ノートゲルト）や切手を発行し、経済の活性化を図りました。さらに、独自のパスポートを発行し、ベルリンに大使館を設置、他国との外交関係を樹立するなど、独立国家としての体裁を整えようと試みました。しかし、これらの試みが実を結ぶ前に、自由国は終焉を迎えることになります。

解消とその後

1923年2月25日、ルール占領をきっかけに、フランス軍のモロッコ人部隊がボトルネック自由国を占領しました。プニスチェク町長は逮捕され、コブレンツに投獄されます。しかし、1924年11月15日にフランス軍がライン川右岸から撤退したことで、この地域の孤立状態は解消されました。

現在、ボトルネック自由国という名称は、ラインガウ地域の観光振興に活用されています。1994年には「建国」75周年を記念して、地元のワイナリーやレストランが「ボトルネック自由国イニシアチブ」を結成し、ワインなどに独自のラベルをつけて販売しています。また、ボトルネック自由国時代に発行された紙幣や切手は、コレクターズアイテムとして人気を集めています。

ボトルネック自由国は、短期間しか存在しなかった幻の国家ですが、その歴史は、第一次世界大戦後の混乱期における人々の苦難と、それを乗り越えようとする創意工夫、そして地域への愛着を物語っています。

もう一度検索