ボヘミア四重奏団

ボヘミア四重奏団は、19世紀末から20世紀前半にかけて活躍した、チェコを代表する弦楽四重奏団です。1891年に創設され、特にスメタナやドヴォルジャークといった自国の作曲家の作品解釈において高い評価を得ました。グループは1918年に「チェコ四重奏団」（チェコ語: České kvarteto）と名称を改め、一時期は創設メンバーの一人であるヨセフ・スクの名前から「スク四重奏団」と呼ばれることもありましたが、1934年にその歴史に幕を閉じました。

このアンサンブルは、1891年にハンガリーのブダペストで誕生しました。その創設メンバーは、ヴァイオリンにカレル・ホフマンとヨセフ・スク（後に作曲家としても高名）、ヴィオラにオスカル・ネドバルという、プラハ音楽院で名教師アントニン・ベネヴィッツに学んだ3人の俊英と、同じくプラハ音楽院でチェロ教授を務めていたハヌシュ・ヴィハーンの門下生であったチェリスト、オタカル・ベルガーの計4名でした。ヴィハーン自身も優れたチェリストであり、バイエルン王ルートヴィヒ2世のもとで活躍した経験を持ち、彼らの結成に大きな影響を与えたと考えられています。

結成間もない頃、将来を嘱望されていたチェリストのオタカル・ベルガーが早世するという不幸に見舞われます。このため、師であるハヌシュ・ヴィハーンが一時的に自らチェロ奏者として参加し、四重奏団の活動を支え、指導を行いました。ヴィハーンは多忙な演奏活動から1913年に引退し、再び教育の道に戻りますが、彼の後任としては、当時シェフチーク＝ラツキー四重奏団のチェリストを務めていたラディスラフ・ゼレンカが迎えられました。また、ヴィオラ奏者のオスカル・ネドバルは1906年に退団し、その後任にはイェジー・ヘロルドが加わりました。第2ヴァイオリンを務めていたヨセフ・スクも、グループの解散前年である1933年に引退し、スタニスラフ・ノヴァークがその席を引き継ぐなど、活動期間中にメンバーの変動がありました。

ボヘミア四重奏団（後のチェコ四重奏団）は、その活動の中心を、ベドルジハ・スメタナやアントニン・ドヴォルジャークといったチェコ国民楽派の大家による弦楽四重奏曲に置き、集中的に取り組みました。彼らはヨーロッパ各地で精力的な演奏旅行を重ね、その演奏は聴衆や批評家から高い評価を得ました。特に、彼らが紡ぎ出す温かみのある豊かな響きと、躍動感に満ちた力強いリズム感は、この四重奏団の大きな特徴として称賛されました。これらの特質は、チェコ音楽が持つ叙情性と民族的なエネルギーを見事に表現する上で、極めて効果的でした。

彼らの影響力は演奏活動にとどまりませんでした。1922年には、四重奏団の現役メンバー全員が、母校であるプラハ音楽院の教授に任命され、後進の指導にも力を注ぎました。また、彼らの演奏は多くの作曲家を刺激し、数々の新作が彼らに献呈されました。レオシュ・ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」のように、彼らが世界初演を務めた重要な作品も少なくありません。さらに、彼らは主要なレパートリーであったスメタナやドヴォルジャークの作品に加え、メンバーであったヨセフ・スク自身の作曲した室内楽曲など、同胞の作品の録音を数多く残しました。これらの録音は、彼らの演奏スタイルを知る貴重な資料となっています。

長年にわたりチェコの室内楽界を牽引してきたボヘミア四重奏団（チェコ四重奏団）は、1934年にその活動を終え、解散しました。彼らの約40年にわたる活動は、チェコの音楽遺産、特に室内楽の普及と発展に大きく貢献し、その後の世代に多大な影響を与えました。彼らが残した演奏の記録や教育者としての功績は、今なおチェコの音楽史の中で特別な位置を占めています。

もう一度検索