ボリウッドのカーン

ボリウッドを彩る「カーン」たち

インド映画産業、特に「ボリウッド」と呼ばれるヒンディー語映画界では、主役級の俳優の中に「カーン」という姓を持つ人物が数多く存在します。その中でも特に著名な3人、シャー・ルク・カーン、アーミル・カーン、サルマーン・カーンは、「3人のカーン」として広く知られています。彼らには血縁関係はありませんが、いずれも1965年生まれであり、ほぼ同時期にキャリアをスタートさせ、それぞれの個性を武器に四半世紀以上にわたりインド映画界のトップを走り続けてきました。

現代ボリウッドを築いた巨星たち

「3人のカーン」は、それぞれがインド国内だけでなく、世界でも最も成功し、影響力のある俳優の一人として認められています。彼らは度々「キング・オブ・ボリウッド」の称号を歴代で受け継ぎ、1990年代から2000年代前半はシャー・ルクが、その後アーミルが世界的な評価を高め、サルマーンが国内で絶大な人気を博すなど、時代と共にその影響力は変化してきました。彼らは多数の映画賞を受賞しており、アーミルはアカデミー賞ノミネートという快挙も成し遂げています。また、最も有名なインド系ムスリムとして、あるいは世界で最も著名な、人気のあるインド人として国際的にも高い知名度を誇ります。その経済的な成功も特筆すべき点で、複数のメディアで映画1本あたりの出演料が5億ルピー（日本円で約10億円）に達すると報じられるなど、世界でも有数の高額出演料俳優として知られています。

彼らは1980年代後半からキャリアを本格化させ、1990年代以降、約30年間にわたり彼らの出演作品がボリウッドの年間興行収入ランキングの最上位を占める状況が続きました。その興行的な影響力は非常に大きく、インド映画全体における彼らの成績は、ハリウッドのマーベル・シネマティック・ユニバース作品群に匹敵すると評されるほどです。彼らは、ボリウッドの歴代高額興行収入映画トップ10のうち8作品、インド映画全体でもトップ10のうち5作品で主演を務めています。また、多くの年で年間最高興行収入作品の主演を務めてきました。

特にアーミル・カーンは、興行収入の新たな指標となる「100カロール・クラブ」（純利益10億ルピー超え）の創設者とも言われています。サルマーン主演の『Hum Aapke Hain Koun..!』やシャー・ルク主演の『DDLJ 勇者は花嫁を奪う』がこのクラブ初期の代表作ですが、アーミル主演の『Ghajini』が初めて純利益で100カロールを達成したとされています。さらに、アーミル主演の『ダンガルきっと、つよくなる』は中国市場で驚異的な成功を収め、インド映画として初めて1000カロール、最終的には2000カロール（200億ルピー超え）という前代未聞の興行収入を記録し、当時の世界市場で最も成功したインド映画となりました。この成功により、アーミルはハリウッドスター以外では破格となる30億ルピー（約60億円）もの報酬を得たと報じられています。個別の経済力では、シャー・ルクは2014年に推定資産6億ドルで世界2番目に裕福な俳優と報じられ、サルマーンもフォーブス誌の世界高額出演料俳優リストに度々名を連ねています。

それぞれの輝き

アーミル・カーン

1965年3月14日生まれ。商業的な成功に加え、質の高い作品選びに定評があり、出演作は少ないものの、その影響力は絶大です。インド国内に加え、特に中国での人気は圧倒的で、「世界最大のムービースター」と評されることもあります。アカデミー賞ノミネート作『ラガーン』のプロデュース・主演や、監督作『地上の星たち』など、俳優以外の分野でも才能を発揮しています。代表作に『きっと、うまくいく』『PK』『ダンガルきっと、つよくなる』など。

サルマーン・カーン

1965年12月27日生まれ。興行面で特に強さを発揮し、「ブロックバスター・カーン」「興行王」とも呼ばれます。出演作のほとんどが10億ルピー（約20億円）以上の興行収入を記録する、インドで最も経済的に成功した俳優の一人です。大作アクション映画で絶大な人気を誇り、代表作には「タイガー」シリーズや『ダバング大胆不敵』、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』などがあります。

シャー・ルク・カーン

1965年11月2日生まれ。「キング・オブ・ボリウッド」「ロマンスの王様」の異名を持ちます。映画一家の出身ではないにも関わらず、自身の力でスターダムを駆け上がりました。特に恋愛映画での成功が著しく、『DDLJ 勇者は花嫁を奪う』はボリウッド史上最も長く上映された作品として知られます。最多タイとなる8回のフィルムフェア賞主演男優賞受賞など、演技面でも高く評価されています。代表作に『Devdas』『マイネーム・イズ・ハーン』など。

ボリウッド「カーン」の系譜

「3人のカーン」が登場する以前、ボリウッドで最も尊敬された「カーン」はディリープ・クマール（本名ムハンマド・ユースフ・カーン）でした。彼は遡及的に「最初のカーン」と呼ばれ、1950年代から60年代にかけて活躍し、リアリズムを導入した演技スタイルは後世の俳優たちに多大な影響を与えました。彼の主演作『偉大なるムガル帝国』は、インフレーションを考慮すると約50年間、インド映画史上最高の興行収入記録を保持しました。

「3人のカーン」に続く世代では、サイーフ・アリー・カーンや故イルファーン・カーンらが「第4のカーン」と称されることがあります。サイーフは名門の出身で、『Hum Tum』での成功を機に主演俳優としての地位を確立しました。イルファーンは国際的な活躍でも知られ、『ライフ・オブ・パイ』や『ジュラシック・ワールド』などハリウッド大作にも多数出演し、その演技力は国内外で高く評価されました。

これらの「カーン」と名のつく俳優たちは、それぞれの時代においてインド映画界の中心的存在となり、その発展と国際的な認知向上に計り知れない貢献をしてきました。彼らの存在は、ボリウッドの歴史を語る上で欠かせないものです。

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