ボンバ (暗号解読機)

ボンバ (Bomba)

ボンバ（ポーランド語：bomba）は、第二次世界大戦勃発直前の1938年10月頃、ポーランド軍情報機関の暗号部門に所属していた暗号学者たち、マリアン・レイェフスキ、ヘンリク・ジガルスキ、イェジ・ルジツキらによって開発された、ドイツ軍が使用していたエニグマ暗号の解読を専門とする機械です。

名称の由来

「ボンバ」という言葉はポーランド語で「爆弾」を意味します。なぜこの機械がそう呼ばれるようになったかについては、いくつかの説が存在します。

ポーランドの技術者タデウシュ・リシキは、アイスクリームの名前からルジツキが名付けたと主張しましたが、彼自身がルジツキを知らなかったため、この説の信憑性は低いとされます。開発者の一人であるレイェフスキは、単に「他に良い名前がなかったから」と語っています。しかし、最も有力とされているのは、暗号部門の技術者であったチェスワフ・ベトレフスキの証言です。それによれば、機械が稼働中に発する独特の音から、「爆弾」あるいは「洗濯機」「マングル（ローラー式脱水機）」などと呼ばれたのが始まりだといいます。

開発の背景

ドイツ軍のエニグマ暗号機は、複数の設定要素（ローターの種類と順序、リング設定、初期設定、プラグボード配線）を組み合わせることで、非常に複雑な暗号を生成しました。さらに、通信の安全性を高めるため、日々更新される全体設定に加え、メッセージごとに固有の「メッセージキー」が使用されました。このメッセージキーは、例えば「PDN」といった3文字の組み合わせを「PDNPDN」のように二重に入力し、その日の全体設定で暗号化されてから、本文の暗号化に使用されました。文字を打鍵するたびにローターが回転するため、同じ「PDN」でも位置によって「PDNPDN」が「ZRSJVL」のように異なる暗号文に変換され、平文中の単語の繰り返しが暗号文から隠される仕組みでした。

ドイツ側はこの手順を安全と考えていましたが、皮肉にも、この二重暗号化されたメッセージキーの繰り返しが、ポーランドの暗号学者たちにとって重要な手がかりとなりました。同じ文字列が異なる結果で暗号化されるという現象に気づいたことが、エニグマ解読に向けた最初の突破口となったのです。

解読への挑戦とボンバの誕生

ポーランドの数学者レイェフスキは、メッセージ冒頭の二重暗号化された文字列の特性を数学的に分析することで、エニグマ機の内部配線を突き止め、その論理構造を再構築することに成功しました。市販されていたエニグマ機の特徴を参考にしつつ、軍用モデルとの差異も克服しました。

しかし、それでもなお、日々の通信を解読するためには、その日の全体設定における数千種類に及ぶ可能性のある鍵の組み合わせを全て試す必要がありました。エニグマ機の複雑さと鍵設定手順の進化により、この手作業による検証は次第に現実的な時間内での解読を不可能にしていました。

この膨大な解読プロセスを機械化し、効率を高めるため、レイェフスキは1938年10月頃にボンバ・クリプトロジクズナ、通称ボンバを開発しました。ボンバは電気モーターで駆動し、エニグマ暗号機の複製6台を組み合わせた構造を持っていました。ポーランドの暗号部門は、1939年9月までに計6セットのボンバを製造しました。

ボンバの解読手法は、以前ポーランドが用いていた手法と同様に、エニグマ機のプラグボード設定が全てのアルファベットの組み合わせを変換するわけではない、という特性を利用したものです。しかし、以前の手法が特定の文字ペアが変換されないことを必要としたのに対し、ボンバは単に変更されない文字が存在すれば適用可能であり、より多くのプラグが接続されている場合でも有効でした。ボンバは1938年11月中旬には実用段階に入り、およそ2時間で日々の鍵設定を見つけ出すことが可能になりました。

技術共有とその後

ポーランドは、1939年7月25日にフランスとイギリスとの会議で、エニグマ解読の技術とボンバを含む装置を共有するまで、6年以上にわたり独力でエニグマ暗号の解読を行っていました。しかし1938年12月15日、ドイツ軍は新たなローターを導入し、ローターの組み合わせ数が大幅に増加したため、解読作業に必要な労力も激増しました。これに対処するため、ポーランド側はボンバの増設や、補助ツールであるジガルスキシートの製造・運用に関わる人員の大幅な増員を迫られました。

ポーランドがエニグマ解読技術を同盟国に共有した理由について、一部では技術的な困難に直面したためとされていましたが、開発者レイェフスキ自身はこれを否定しています。彼によれば、技術的な問題ではなく、ドイツによる侵攻が差し迫る中で、対独戦における最大の貢献としてその成果を同盟国と共有することを決断した、政治的な理由が大きかったと述べています。

ボンバで培われた概念は、後にイギリスやアメリカで開発され、第二次世界大戦中にエニグマ暗号解読で極めて重要な役割を果たした計算機械「ボンブ (bombe)」に大きな影響を与えました。

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