ボードゥアン5世 (エノー伯)

ボードゥアン5世：領土と権謀術数の生涯

ボードゥアン5世（1150年頃 - 1195年）は、エノー伯として、またフランドル伯ボードゥアン8世、ナミュール侯ボードゥアン1世としても歴史に名を刻む人物です。その生涯は、領土の拡大、婚姻を通じた政治的影響力の強化、そして当時の複雑な政治情勢との巧みな駆け引きによって特徴づけられます。

生い立ちと結婚

ボードゥアン5世は、エノー伯ボードゥアン4世とアリス・ド・ナミュールの息子として生まれました。1169年、フランドル伯ティエリー・ダルザスの娘マルグリットとの結婚は、ドゥエーを巡る紛争に終止符を打つ重要な出来事でした。この結婚を通じて、マルグリットが持参金の一部としてドゥエーをフランドルへ譲渡することで、両家の関係は安定しました。

フランドル伯への道

ボードゥアン5世は、エノー伯領内の貴族たちとの不和を解消するため尽力しました。1177年には、義兄であるフランドル伯フィリップ・ダルザスと条約を結び、自身をフランドル伯の後継者に指名させることで、その関係を強化しました。さらに、1180年にはフィリップ・ダルザスの勧めで、娘イザベルをフランス王フィリップ2世（尊厳王）と結婚させ、豊かなアルトワを持参金として与えました。これは、自身の立場をより強固にするための戦略的な結婚でした。

政治的葛藤と領土継承

フランス王とフランドル伯の対立が激化すると、ボードゥアン5世は困難な立場に立たされました。フランドル伯との同盟関係から、フランス王の同盟者であるブラバント公アンリ1世との戦いを余儀なくされたのです。最終的には、娘イザベルの利益を守るために、権利を放棄する道を選びました。

また、ボードゥアン5世は、叔父にあたるリュクサンブール伯ハインリヒ4世からナミュール伯領の後継者に指名されていました。この指名は1184年に神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世によって承認され、1187年にはナミュール伯領は侯領へと格上げされました。しかし、1186年にハインリヒ4世に娘が生まれると、彼は約束を反故にし、娘エルメジンデにナミュール侯領を継承させようとしました。1194年の戦いでハインリヒ4世は敗北し、彼の存命中はナミュールを維持するものの、死後はボードゥアン5世が継承することが決定しました。

フランドル伯としての統治

1191年、フィリップ・ダルザスの死後、ボードゥアン5世は妻マルグリットと共にフランドル伯となり、ボードゥアン8世を名乗りました。フィリップ・ダルザスの未亡人マティルド・ド・ポルテュガルは、多額の持参金を持っていました。しかし、彼女は最終的に自分の主張を取り下げ、フィリップ尊厳王は新しいフランドル伯の忠誠を認めました。1194年に妻マルグリットが死去すると、フランドル伯位は長男ボードゥアン9世が継承し、ナミュール侯領は次男フィリップが継承しました。

子女

ボードゥアン5世は多くの子宝に恵まれました。その子供たちは、ヨーロッパの歴史に重要な役割を果たしました。

イザベル（1170年 - 1190年）：フランス王フィリップ2世妃
ボードゥアン（1171年 - 1205年）：フランドル伯、エノー伯、初代ラテン皇帝ボードゥアン1世
ヨランド（1175年 - 1219年）：第3代ラテン皇帝ピエール2世・ド・クルトネーの妃、第4代ラテン皇帝（摂政）。第5代ラテン皇帝ロベール1世、第7代ラテン皇帝ボードゥアン2世の母
フィリップ1世（1175年 - 1212年）：ナミュール侯
アンリ（1176年 - 1216年）：第2代ラテン皇帝アンリ1世
シビーユ（1179年 - 1217年）：ボジュー領主ギシャール4世の妻
ウスタシュ（1219年没）：テッサロニキ王国摂政
ゴドフロワ

まとめ

ボードゥアン5世の生涯は、中世ヨーロッパにおける領土と権力の変遷、そして複雑な政治的駆け引きを象徴しています。彼は、エノー伯、フランドル伯、ナミュール侯としての地位を確立し、その子孫たちがヨーロッパの歴史に大きな影響を与える基盤を築きました。

もう一度検索