フィリップ・ダルザス

フィリップ・ダルザス：中世フランドルの統治者

フィリップ・ダルザス（Philippe d'Alsace, 1143年 - 1191年6月1日）は、中世フランスの貴族であり、ヴェルマンドワ伯およびフランドル伯として重要な役割を果たしました。彼の生涯は、政治的な駆け引き、領土の拡大、そして文化的な支援に彩られています。

生い立ちと結婚

フィリップは、ティエリー・ダルザスとシビーユ・ダンジューの次男として生まれました。1156年、父の意向によりヴェルマンドワ伯ラウル1世の娘エリザベートと政略結婚しました。この結婚は、彼の政治的地位を固める上で重要な役割を果たしました。さらに、妹のマルグリットもエリザベートの弟ラウル2世と結婚し、ダルザス家とヴェルマンドワ家の関係を強化しました。

ヴェルマンドワ伯としての台頭

1167年、ラウル2世の死後、フィリップはヴェルマンドワ伯領を相続しました。それ以前にも、彼は父が聖地エルサレム巡礼に出かけた際にフランドルの統治を任されており、内政手腕を発揮していました。特に、1163年のグラヴリーヌ建設やアラスへの特許状発給は、都市からの要請に応じたもので、彼の統治能力を示すものでした。これらの政策を支えたのは、尚書部の上級役人であるエールのロベールでした。ロベールは地域社会の要望をフィリップに伝え、政策立案と実行に大きく貢献しました。

フランドル伯としての統治

1168年、父ティエリーの死により、フィリップはフランドル伯を継承し、単独統治を開始しました。対外関係では、イングランド王ヘンリー2世と対立していたカンタベリー大司教トマス・ベケットを支援しました。また、フランス王ルイ7世とは、ヴェルマンドワ伯領の獲得により関係が悪化しましたが、フランドルとイングランドの接近を恐れたルイ7世は、フィリップを黙認しました。

反乱と十字軍

1173年、フィリップは、イングランド共治王若ヘンリーが父ヘンリー2世に反乱を起こした際、若ヘンリー王と同盟を結びました。しかし、この反乱は失敗に終わり、フィリップはノルマンディーでマチューを失うなど、多くの損失を被りました。その後、彼は姪のイザベル・ド・エノーをフランス王フィリップ2世に嫁がせ、ヘンリー2世に対抗するためにリチャード（後のリチャード1世）とフィリップ2世を同盟させました。

フィリップは十字軍にも熱心であり、1177年にはエルサレム王国からの要請を受けて東方へ出発しました。彼はエルサレム王国の摂政を提案されましたが、これを拒否し、短期間で帰国しました。また、彼は馬上槍試合を好み、若ヘンリーの死を悼むなど、騎士道精神を重んじる人物でもありました。

文化とパトロン

フィリップは文化的な支援者としても知られており、特にクレティアン・ド・トロワとの関係は有名です。彼はクレティアンを庇護し、その作品『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』はフィリップに捧げられました。この作品はフランドルで書かれたことが確認されており、フィリップが文化活動に深く関わっていたことを示しています。

失脚と晩年

フィリップ2世は、王家の外戚として権勢を振るうシャンパーニュ伯家に対抗するためにフィリップを頼っていましたが、和睦後は彼を排除しようとしました。このため、フィリップは反乱を起こしましたが、敗北し、1185年のボーヴ条約で領土の大部分を失いました。その後、第3回十字軍に参加し、リチャード1世を支援しました。しかし、1191年6月1日に死去し、子供がいなかったため、フランドル伯領は妹夫婦に引き継がれました。

まとめ

フィリップ・ダルザスは、政治的な手腕、軍事的な能力、そして文化的な支援を通じて、中世ヨーロッパ史に大きな足跡を残しました。彼の生涯は、中世の貴族社会における権力闘争、領土拡大、そして文化的な繁栄を反映しています。

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