ボール箱

ボール箱（The Cardboard Box）

『ボール箱』は、イギリスの小説家アーサー・コナン・ドイルによる短編であり、シャーロック・ホームズシリーズの一作品です。この物語は全56篇の短編の中で14番目に発表され、1893年1月、イギリスの「ストランド・マガジン」とアメリカの「ハーパーズ・ウィークリー」に掲載されました。後に、イギリスでは1917年発行の短編集『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』に収録され、アメリカでは1894年発行の『シャーロック・ホームズの思い出』に収められました。

あらすじ

物語は、ある朝ホームズが新聞で目にした異様な事件から始まります。それは、クロイドンに住む独身女性スーザン・クッシングの元に、切り取られた人間の耳が2つ、ボール箱に入れられて送られてきたという奇怪なものでした。差出人は不明で、消印はベルファストに印されています。スーザンは過去に3人の医学生を家に住まわせたことがあり、彼らの振る舞いが悪かったため追い出した経緯がありました。ホームズは、レストレード警部から事件の調査を依頼され、捜査を開始します。

ホームズがスーザンの家を訪れると、ボール箱は麻紐で締められており、その結び方が特異だったことに注目します。さらに、耳は防腐処理がされておらず、解剖用の死体から切られたものでないと判断しました。調査を進める中で、スーザンには妹が二人いることがわかります。姉のセアラは以前、スーザンの家に寄宿していたものの、気難しさから追い出されていました。そして、末妹のメアリはリバプールに住んでおり、船乗りのブラウナーと結婚しています。

ホームズはセアラの家を訪ねますが、重度の脳炎で面会はできず、さらにメアリは旅行中で不在という状況でした。ホームズはレストレード警部に連絡を取り、犯人を捕まえるよう指示します。後に、ブラウナーが逮捕され、事件に関する証言を始めました。彼によると、結婚後は幸せに暮らしていたものの、セアラが訪れた際に彼女とアレックとの関係が始まり、次第に事態は悪化していきました。ブラウナーは怒り、セアラに警告をしたものの、2人の関係は続いていました。

事件当日、ブラウナーの船は突然の修理で自由時間ができ、メアリとアレックが一緒にいるのを見た彼は逆上します。冷静さを失ったブラウナーはアレックを殺し、続いてメアリも手にかけてしまいました。耳を切り落とした後、遺体をボートに縛り付けて沈め、セアラに送ることにしました。しかし、住所変更により、小包はスーザンに届いてしまったのです。

収録事情と評価

『ボール箱』は、その内容が不倫を扱っており、当時の倫理観と合わず、ドイル自身によって削除された経緯があります。イギリス版の短編集には収められず、アメリカ初版で一時的に収録された後、再度削除されました。1917年の短編集において社会的な変化が影響し、再び収録されることとなります。

本作の冒頭部分において、ホームズがワトスンの心理を分析する場面は、後に別の作品の一部としても掲載されています。このやり取りも、短編の重要な特徴とされています。

ドラマ版

グラナダ版のTVドラマでは、事件が起きたのは真冬の設定となり、ボール箱はクリスマスプレゼントの中に含まれていて、家人が驚愕する場面が描かれました。また、メアリとアレックは氷漬けの状態で発見される演出が施されています。

『ボール箱』は、ホームズシリーズの中でも特異なストーリーとして、読者や視聴者に強い印象を与え続けています。

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