ポダレイリオス

ポダレイリオス（古希: Ποδαλείριος, ラテン語: Podalirius）は、古代ギリシアの伝承に語られる著名な人物であり、特にその卓越した医術で知られています。

彼は医術を司る神アスクレーピオスの子として生まれました。アスクレーピオスは光明神アポローンの子であるため、ポダレイリオスはアポローンの孫にあたります。ポダレイリオスにはマカーオーンという兄弟がおり、彼もまた名高い医者でした。しかし、ポセイドーンを父とする別の伝承も存在し、その出自についてはいくつかの説があります。

ポダレイリオスとマカーオーンの兄弟は、共に優れた医療技術を持つことで広く知られていましたが、彼らの専門分野は異なっていたと伝えられています。兄マカーオーンが主に外科的な治療、すなわち傷や怪我の手当てや手術に長けていたのに対し、ポダレイリオスは内科的な疾患、体内の病気や不調に対する深い知識と治療技術に秀でていました。彼らは古代における医療の進歩に貢献した人物として、神話や伝説の中で讃えられています。

ポダレイリオスは、トロイア戦争の発端となったスパルタ王妃ヘレネーの多くの求婚者の一人でもありました。最終的にヘレネーがミュケーナイ王メネラーオスと結婚した後、トロイアに対して遠征軍が組織されると、ポダレイリオスもこれに参加しました。彼は自身の故郷に近いテッサリア地方の都市トリッケーから集めた軍勢を率い、30隻の船団を伴ってトロイアへと向かいました。これは、彼が単なる医師であるだけでなく、指導者としての能力も兼ね備えていたことを示しています。

トロイア戦争中、ポダレイリオスの医術が重要な役割を果たした場面があります。特に有名なのは、レームノス島に置き去りにされ、蛇に噛まれた傷によって長年苦しんでいた英雄ピロクテーテースの治療です。この傷は非常に悪質で、多くの者が治療を試みましたが成功しませんでした。しかし、ポダレイリオスがその専門知識を駆使して治療にあたり、ついにピロクテーテースを回復させたと伝えられています。これにより、ピロクテーテースはアキレウスの弓矢を用いてトロイア攻略に貢献することが可能となり、ポダレイリオスの医術が戦争の行方にも影響を与えたと言えるでしょう。

トロイア戦争終結後、ポダレイリオスは他のギリシア勢の指導者たちと共に故郷への帰途につきました。その過程で、彼はリュキア地方から来た有名な予言者カルカースが小アジアのコロポーンで死去したことに立ち会い、ポリュポイテースら他の英雄と共に彼の葬儀に参列したとされています。

その後、ポダレイリオスは自身の将来の定住地について神意を問うため、古代世界で最も権威ある神託所の一つであったデルポイを訪れました。そこで彼はピュートーの巫女を通じて神託を受けましたが、その内容は「天が崩れ落ちてきても害が及ばない場所に住むべし」という、一見して抽象的で理解しがたいものでした。

ポダレイリオスはこの神託の真意を深く考え、最終的に小アジアの南西部、カーリア地方にあるケルソネーソスという土地に新しい居を定めることを決めました。この地はその名の通り「半島」を意味し、特に周囲を険しい山々に囲まれた要害の地でした。ポダレイリオスは、このような地理的特徴を持つケルソネーソスこそが、神託の示した「天変地異からも隔絶された、安全な場所」であると解釈したのです。こうして彼は、医師として、また一人の英雄として数々の経験を積んだ後、この地で生涯を終えた（または定住した）と伝えられています。

ポダレイリオスの物語は、古代ギリシアにおいて医術がいかに重要視され、神話的な英雄の資質の一つと見なされていたかを示す好例であり、彼とその兄弟マカーオーンは、ヒポクラテス以前の伝説的な医師たちの系譜に名を連ねています。

もう一度検索