ポチ (北海道犬)
北海道の羊蹄山麓に位置する真狩村に生を受けたメスの北海道犬、ポチ（1910年（明治43年）-1927年（昭和2年）12月4日）。彼女の生涯は、一人の郵便局長との深い絆と、厳しい自然の中で見せた忠誠の物語として、今も語り継がれています。
ポチと運命的な出会いを果たしたのは、真狩郵便局長を務めていた村上政太郎でした。1910年、政太郎は郵便配達の途中で、トマト畑の傍らに衰弱して捨てられていた小さな仔犬を見つけます。生後間もないその仔犬を不憫に思った政太郎は自宅に連れ帰り、愛情を込めて育てることにしました。メスだった仔犬は「ポチ」と名付けられ、村上夫婦や息子の正男の献身的な世話によって、みるみるうちに元気を取り戻しました。
成長したポチは、政太郎にとって単なる家族の一員以上の存在となります。毎朝政太郎と一緒に郵便局へ「出勤」し、やがて雪の日も風の日も、彼に寄り添って郵便配達の道中を共にするようになったのです。二人が連れ立って村を巡る姿は、当時の真狩村の人々にとって、すっかりお馴染みの光景となっていました。
悲劇が起こったのは、1918年（大正7年）1月16日のことです。その日、政太郎は他の局員が出払っていたため、約5キロメートル離れた村の山奥にある家へ、電報を届けるためポチと共に出かけました。雪のない季節なら1時間半ほどの道のりも、深い雪のために倍の時間がかかり、目的の家に到着したのは日没後でした。用を済ませた二人は来た道を戻り始めましたが、夜が更けるにつれて雪は激しさを増し、やがて猛烈な吹雪へと変わります。視界を奪う吹雪の中、郵便局まであと2キロメートルという地点で、政太郎はついに力尽き、雪の中に倒れ込みました。
翌朝、政太郎の遺体が発見されたのは、ポチの懸命な行動のおかげでした。ポチは吹雪の中、息絶えた政太郎の体を覆いかぶさるように寄り添い、人が近づくと狂ったように吠え立てて守り続けていたのです。この事実は真狩村の人々に深い衝撃と感動を与え、ポチの忠誠心は瞬く間に北海道中に知れ渡り、「忠犬」として広く称賛されることとなりました。当時の新聞、北海タイムスも、ポチが吹雪をものともせず主人の遺体を守り続けたことを伝え、「この忠義なる犬に対し賛嘆の声盛んなり」と記しています。
政太郎は村内の寺院に埋葬され、墓碑には遭難の経緯が刻まれました。札幌から戻ってきた息子の正男が父の後を継いで郵便局長となります。ポチはその後もしばらく村上家で暮らしましたが、かつての元気は失われていたといいます。
1919年（大正8年）、ポチは札幌報恩学園へと引き取られることになります。この学園は、家庭に恵まれない子供たちのために小池九一が設立した施設でした。小池はポチを通して、子供たちの心を和ませ、思いやりの心を育みたいと強く願っていました。正男は当初迷いましたが、小池の熱意に動かされ、母と相談の上、ポチを学園に託すことを決意します。
札幌報恩学園に移ったポチは、朝の鐘を鳴らしたり、夜の見張りを務めたりしながら、子供たちにとってかけがえのない存在となっていきました。子供たちはポチを慕い、彼女を中心に集まり、温かい交流が生まれました。ポチは学園で約7年半を過ごし、1927年（昭和2年）12月4日、人間でいうと100歳にあたる17歳でその生涯を静かに終えました。
ポチの死後、その功績と存在を残したいと考えた小池の計らいで、ポチは剥製にされました。剥製は学園の教材室に安置され、また庭にはポチの石像も建立されました（後に破損しましたが、台座は残り、2018年に再建されています）。
第二次世界大戦後、学園が知的障がい児施設として新たな道を歩み始めた頃、1965年（昭和40年）夏、真狩郵便局長となっていた正男が学園を訪れ、46年ぶりにポチの剥製と対面を果たしました。同年11月には、逓信総合博物館からの申し入れにより、ポチは学園を離れて東京の博物館で展示されることになります。
しかし、ポチの物語はこれで終わりではありませんでした。1987年（昭和62年）、逓信総合博物館を修学旅行で訪れた北海道真狩高等学校の生徒たちが、「ポチをふるさとへ」と強く願い、村役場に働きかけた結果、ポチの剥製は故郷である真狩村への「帰還」を果たします。真狩村に戻ったポチは、当初羊蹄ふるさと館に展示された後、現在は真狩村公民館（真狩村字光4）にて、かつて愛した故郷の人々に見守られるように安置されています。
ポチの生涯と感動的なエピソードは、多くの人々に影響を与えました。作家の綾野まさるは、ポチの物語を基にした童話『郵便犬ポチの一生』を執筆しています。また、ポチの帰還のきっかけを作った真狩高校の生徒たちは、紙芝居『局長さんとポチ』を制作し、地域の子供たちにポチの物語を語り継いでいます。ポチは、一頭の犬が見せた忠誠と、それを受け継ぐ人々の思いによって、今も生きた存在として人々の心に留められています。
ポチと運命的な出会いを果たしたのは、真狩郵便局長を務めていた村上政太郎でした。1910年、政太郎は郵便配達の途中で、トマト畑の傍らに衰弱して捨てられていた小さな仔犬を見つけます。生後間もないその仔犬を不憫に思った政太郎は自宅に連れ帰り、愛情を込めて育てることにしました。メスだった仔犬は「ポチ」と名付けられ、村上夫婦や息子の正男の献身的な世話によって、みるみるうちに元気を取り戻しました。
成長したポチは、政太郎にとって単なる家族の一員以上の存在となります。毎朝政太郎と一緒に郵便局へ「出勤」し、やがて雪の日も風の日も、彼に寄り添って郵便配達の道中を共にするようになったのです。二人が連れ立って村を巡る姿は、当時の真狩村の人々にとって、すっかりお馴染みの光景となっていました。
悲劇が起こったのは、1918年（大正7年）1月16日のことです。その日、政太郎は他の局員が出払っていたため、約5キロメートル離れた村の山奥にある家へ、電報を届けるためポチと共に出かけました。雪のない季節なら1時間半ほどの道のりも、深い雪のために倍の時間がかかり、目的の家に到着したのは日没後でした。用を済ませた二人は来た道を戻り始めましたが、夜が更けるにつれて雪は激しさを増し、やがて猛烈な吹雪へと変わります。視界を奪う吹雪の中、郵便局まであと2キロメートルという地点で、政太郎はついに力尽き、雪の中に倒れ込みました。
翌朝、政太郎の遺体が発見されたのは、ポチの懸命な行動のおかげでした。ポチは吹雪の中、息絶えた政太郎の体を覆いかぶさるように寄り添い、人が近づくと狂ったように吠え立てて守り続けていたのです。この事実は真狩村の人々に深い衝撃と感動を与え、ポチの忠誠心は瞬く間に北海道中に知れ渡り、「忠犬」として広く称賛されることとなりました。当時の新聞、北海タイムスも、ポチが吹雪をものともせず主人の遺体を守り続けたことを伝え、「この忠義なる犬に対し賛嘆の声盛んなり」と記しています。
政太郎は村内の寺院に埋葬され、墓碑には遭難の経緯が刻まれました。札幌から戻ってきた息子の正男が父の後を継いで郵便局長となります。ポチはその後もしばらく村上家で暮らしましたが、かつての元気は失われていたといいます。
1919年（大正8年）、ポチは札幌報恩学園へと引き取られることになります。この学園は、家庭に恵まれない子供たちのために小池九一が設立した施設でした。小池はポチを通して、子供たちの心を和ませ、思いやりの心を育みたいと強く願っていました。正男は当初迷いましたが、小池の熱意に動かされ、母と相談の上、ポチを学園に託すことを決意します。
札幌報恩学園に移ったポチは、朝の鐘を鳴らしたり、夜の見張りを務めたりしながら、子供たちにとってかけがえのない存在となっていきました。子供たちはポチを慕い、彼女を中心に集まり、温かい交流が生まれました。ポチは学園で約7年半を過ごし、1927年（昭和2年）12月4日、人間でいうと100歳にあたる17歳でその生涯を静かに終えました。
ポチの死後、その功績と存在を残したいと考えた小池の計らいで、ポチは剥製にされました。剥製は学園の教材室に安置され、また庭にはポチの石像も建立されました（後に破損しましたが、台座は残り、2018年に再建されています）。
第二次世界大戦後、学園が知的障がい児施設として新たな道を歩み始めた頃、1965年（昭和40年）夏、真狩郵便局長となっていた正男が学園を訪れ、46年ぶりにポチの剥製と対面を果たしました。同年11月には、逓信総合博物館からの申し入れにより、ポチは学園を離れて東京の博物館で展示されることになります。
しかし、ポチの物語はこれで終わりではありませんでした。1987年（昭和62年）、逓信総合博物館を修学旅行で訪れた北海道真狩高等学校の生徒たちが、「ポチをふるさとへ」と強く願い、村役場に働きかけた結果、ポチの剥製は故郷である真狩村への「帰還」を果たします。真狩村に戻ったポチは、当初羊蹄ふるさと館に展示された後、現在は真狩村公民館（真狩村字光4）にて、かつて愛した故郷の人々に見守られるように安置されています。
ポチの生涯と感動的なエピソードは、多くの人々に影響を与えました。作家の綾野まさるは、ポチの物語を基にした童話『郵便犬ポチの一生』を執筆しています。また、ポチの帰還のきっかけを作った真狩高校の生徒たちは、紙芝居『局長さんとポチ』を制作し、地域の子供たちにポチの物語を語り継いでいます。ポチは、一頭の犬が見せた忠誠と、それを受け継ぐ人々の思いによって、今も生きた存在として人々の心に留められています。
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