ポックスウイルス科

ポックスウイルス科：多様なウイルスと歴史的影響

ポックスウイルス科(Poxviridae)は、動物に感染するDNAウイルスからなる科です。その特徴的な形態、増殖方法、そして歴史的な影響から、ウイルス学において重要な位置を占めています。

ウイルスの特徴

ポックスウイルスは、大きさが220～450nmにも及ぶ、比較的巨大なウイルスです。レンガ型または卵円形をした粒子（ビリオン）を持ち、二重鎖DNAゲノムを有しています。多くのウイルスは宿主細胞の核内で増殖しますが、ポックスウイルスは独自のDNA複製酵素を備えているため、細胞質内で増殖するという特異性を持っています。通常のエンベロープを持つウイルスとは異なり、エーテル耐性を示す属もあります。感染経路は、飛沫感染や接触感染が主なもので、節足動物を介した媒介も報告されています。

多様な属と代表的なウイルス

ポックスウイルス科は、いくつかの属に分類されます。代表的なウイルスと疾患を以下に示します。

オルソポックス[ウイルス]]属 (Orthopoxvirus): この属には、人類の歴史に大きな影響を与えた天然痘ウイルス]が含まれます。[天然痘は、かつて世界中で猛威を振るった感染症でしたが、世界保健機関(WHO)の根絶キャンペーンにより、現在では自然界から完全に消滅しています。この属には、他に牛痘ウイルス]、ワクチニア[ウイルス]（[天然痘ワクチンの開発に用いられた）、エムポックス[[ウイルス]、ラクダ痘[ウイルス]などがあります。
パラポックス[ウイルス]]属 (Parapoxvirus): オルフウイルス]やウシ丘疹性口炎[ウイルス]など、主にウシなどの偶蹄類に[[感染するウイルスが含まれます。
アビポックス[ウイルス]]属 (Avipoxvirus): 鳥類に感染するウイルスで、鶏痘[[ウイルス]やカナリア痘[ウイルス]などが含まれます。
その他: ヒツジ痘[ウイルス]、ヤギ痘[ウイルス]、伝染性軟属腫[ウイルス]など、様々な動物種に感染するウイルスが、それぞれ異なる属に分類されています。アラスカポックスウイルスは2015年に発見され、2024年1月下旬にアラスカ州で初の死亡者を出しました。

病原性と臨床症状

ポックスウイルス感染症は、皮膚に発疹や斑点を生じるのが特徴です。天然痘のような重篤な疾患から、比較的軽症の疾患まで、ウイルスの種類や宿主動物によって症状は様々です。

予防と治療

天然痘の場合、ワクチン接種が効果的な予防法でした。他のポックスウイルス感染症に対しても、ワクチン開発が進められています。治療法としては、抗ウイルス薬や対症療法などが用いられます。

今後の研究

ポックスウイルスは、その多様性と潜在的な危険性から、現在も活発に研究されています。新たなウイルスの発見、病原性の解明、そして効果的な治療法や予防法の開発が、今後の重要な課題です。 特に、新たなポックスウイルス出現の監視や、既存のウイルスによる新たな脅威への備えが求められています。また、ポックスウイルスベクターを利用したワクチン開発など、バイオテクノロジー分野への応用も期待されています。

参考文献

鹿江雅光、新城敏晴、高橋英司、田淵清、原澤亮編　『最新家畜微生物学』　朝倉書店　1998年
原澤亮　「動物ウイルスの新しい分類（2005）」　『獣医畜産新報』　58号　921-931頁　2005年

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