ポリアーキー (ダール)

ポリアーキー：現代民主主義への多角的なアプローチ

ロバート・ダールによる『ポリアーキー：参加と反対』(Polyarchy: Participation and Opposition)は、1971年に発表された民主主義研究の金字塔です。ダールは、軍務や農務省勤務を経て政治学研究の道を歩み、『議会と外交政策』などの業績で知られる著名な政治学者です。本書『ポリアーキー』は、彼の政治学研究の集大成ともいえるもので、現代民主主義理論に多大な影響を与え続けています。

本書で注目すべき点は、ダール独自の民主主義概念「ポリアーキー」の提唱です。これは、単なる「多数による支配」を意味する言葉ではありません。ダールは、ポリアーキーを、幅広い政治参加と活発な政治競争が保障されている政治体制として定義づけました。反対に、これらの要素が欠如している体制を抑圧体制と位置づけています。

ダールは、ポリアーキーを規定する上で、政治参加の程度と政治競争の度合いを重要な指標として用いました。彼の分析は、単なる概念にとどまらず、様々なデータに基づいた実証的な研究に基づいています。

ポリアーキーは、特定の社会形態に限定される概念ではありません。ダールは、ポリアーキーが成立・維持される条件は多様であるとし、様々な社会状況における実現可能性を示唆しています。具体的には、歴史的背景、社会経済構造、不平等や不満の程度、文化的要因、政治活動家の姿勢、そして国際的な要因（例えば外国からの支配）といった七つの要素が、ポリアーキーの成立に影響を与えると論じています。

興味深いのは、ダールが抑圧体制下においても、政府への参加と批判が拡大すれば、ポリアーキーへの移行の可能性があると示唆している点です。これは、民主主義への移行が必ずしも一方向的な過程ではないことを示しています。

『ポリアーキー』は、民主主義を理想化された状態としてではなく、現実的な政治体制として捉え、その成立条件や維持条件を多角的に分析した点が大きな特徴です。歴史的・社会経済的要因、文化的要因、そして政治的主体の行動といった複雑に絡み合う要素を考慮し、民主主義のダイナミズムを解き明かそうとしたダールの試みは、現代民主主義研究に大きな足跡を残しました。

本書は、民主主義の理論的理解を深めるだけでなく、現実世界の政治システムを分析する上で貴重な視座を提供してくれます。単なる学術書としてだけでなく、現代社会の政治問題を考える上で示唆に富む内容となっています。邦訳版も複数存在しており、日本語でも容易にアクセス可能です。現代民主主義を理解したいと考えている全ての人にとって、本書は必読の書と言えるでしょう。

もう一度検索