ポリーテース

ポリーテース（古希: Πολίτης）という名は、古代ギリシア神話において複数の人物が名乗っていたが、中でも特筆されるのは、トロイアの王子とイタケーの王オデュッセウスに仕えた部下の二人である。これらの人物は、それぞれ異なる物語の中で重要な役割を果たした。

トロイア王プリアモスの子

まず、トロイア王プリアモスの子であるポリーテースについて詳述する。彼は、偉大な王プリアモスと妃ヘカベーの間に生まれた数多くの子供たちの一人であり、トロイアの王子として知られている。トロイアの勇将ヘクトールや、スパルタ王妃ヘレネーを拐奪したパリスなど、著名な兄弟姉妹を多く持っていた。トロイア戦争においては、彼はトロイア軍の一員として勇敢に戦った。ホメーロスの叙事詩『イリアス』によれば、ギリシア軍が築いた堅固な防壁を破り、トロイア軍が攻め込んだ激しい戦闘の中で、ポリーテースは深手を負った兄弟デーイポボスを戦場から救い出し、その命を救うために尽力したというエピソードが伝えられている。また、神々が戦いに介入する場面では、光明神アポローンがアイギスを用いてギリシア軍を混乱させ、敗走させた際、ポリーテースはギリシアの戦士であるエキオスを討ち取るという武功を挙げた。しかし、輝かしい活躍も虚しく、トロイアの都が陥落する運命の日、ポリーテースは追手から逃れるため、父プリアモスが身を寄せていた祭壇へとたどり着いた。だが、アキレウスの子であり、冷酷で知られたネオプトレモス（ピュロスとも呼ばれる）は、神聖な祭壇をも顧みず、老いたプリアモスを討ち取る前に、その場でポリーテースを斬殺したとされる。かくして、トロイアの王子ポリーテースは、祖国の滅亡と共にその生涯を閉じたのである。

オデュッセウスの部下

次に、もう一人の著名なポリーテース、すなわちイタケー王オデュッセウスの部下であった人物に焦点を当てる。彼は、オデュッセウスが故郷イタケーへの帰還を目指す困難な旅に同行した忠実な従者の一人であった。ホメーロスの『オデュッセイアー』によれば、このポリーテースは特にオデュッセウスのお気に入りの部下として描かれている。漂流の末、一行が魔女キルケーが住むアイアイエー島にたどり着いた際、偵察隊の一員として島を探索した。しかし、キルケーの館で出された魔法の薬によって、エウリュロコスら他の部下たちと共に豚の姿に変えられてしまった。オデュッセウスが神々の助けを得てキルケーの魔法を破り、部下たちを元の姿に戻した後も、ポリーテースはオデュッセウスに忠実に仕え続けたと考えられている。

しかし、彼の物語は『オデュッセイアー』の後も続く。古代ギリシアの旅行家パウサニアースの記録『ギリシア記』には、オデュッセウス一行がイタリア半島の南部に位置するテメサーという土地（現在のカラブリア州ノチェーラ・テリネーゼ付近とされる）に上陸した際に起きた悲劇が記されている。パウサニアースは、あるオデュッセウスの部下がテメサーにおいて泥酔し、地元の女性に暴行を働くという狼藉を働き、その結果、激怒した住民によって石打ちの刑で殺されてしまったと伝えている。さらに、この部下は死後、邪悪なダイモーン（悪霊、精霊）と化し、テメサーの人々を次々と殺害するようになったという。恐怖に駆られた住民たちはテメサーから逃げ出そうとしたが、デルポイの神託によって逃亡を禁じられ、その代わりにダイモーンのために神殿を建て、毎年、最も美しい処女を犠牲として捧げることで災いを鎮めるよう命じられた。住民たちが神託に従うと、ダイモーンによる犠牲者は出なくなったという。パウサニアースはこの怨霊となった部下の名を明記していないが、同時代の地理学者ストラボーンの著書『ギリシア・ローマ世界地誌』によれば、このダイモーンこそがオデュッセウスの部下ポリーテースであり、彼はテメサーの人々に裏切られて殺されたことを恨んで怨霊となったのだと明確に述べている。この忌まわしいダイモーンは、後に紀元前5世紀にオリュムピア競技祭でボクシングの覇者となったエウテューモスという人物によって退治されたという伝説がパウサニアースやストラボーンによって伝えられている。エウテューモスがテメサーを訪れた時、ちょうどその年に行われる処女の犠牲の儀式を目にした。神殿に捧げられようとしていた処女の美しさに心を奪われたエウテューモスは、ダイモーンに戦いを挑み、見事これを打ち破った。ダイモーンは海の底へと姿を消し、二度とテメサーの地を脅かすことはなかったとされる。このように、ポリーテースという名は、トロイアの滅亡を目の当たりにした悲劇の王子と、遠い異国の地で怨霊となった不運な従者という、対照的な二つの物語に刻まれているのである。

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