ネオプトレモス

ネオプトレモス

ネオプトレモス（古希: Νεοπτόλεμος）は、ギリシア神話に登場する重要な人物であり、古代ギリシア文学、特にホメーロスの叙事詩や悲劇においてその姿が描かれています。彼は、ギリシア軍随一の英雄として名高いアキレウスと、スキューロス島の王リュコメーデースの娘デーイダメイアの間に生まれた息子です。彼の名前「ネオプトレモス」とは、文字通り「若い戦士」を意味し、その生涯が示すように、父に劣らぬ勇猛さを持っていました。また、彼は赤毛であったことから、「ピュロス」（古希: Πύρρος、「炎のような」「赤毛の」の意）という別名でも知られています。

トロイア戦争への参戦とその役割

トロイア戦争の最終盤、ギリシア軍は最大の支柱であったアキレウスを失い、勝利への希望が薄れつつありました。この絶望的な状況下、神託はトロイア攻略の鍵がネオプトレモスにあることを示唆します。この神託は、トロイア王プリアモスの息子で予言の能力を持つヘレノスが、ギリシア軍に捕らえられた際に明かした予言に基づいています。ヘレノスは、ギリシアが勝利するためにはネオプトレモスの存在が不可欠であると告げたのです。これにより、ネオプトレモスは父の後を継ぐ者として、勝利を確実にするための象徴的存在として迎え入れられました。

ネオプトレモスが果たした重要な役割の一つに、ヘーラクレースの強弓を持つ英雄ピロクテーテースの参戦を促したことがあります。ソポクレースの悲劇『ピロクテーテース』によれば、ギリシア軍はヘーラクレースの弓なくしてトロイアを陥落させられないことを知っていました。そこで、狡猾なオデュッセウスと共に、レームノス島に置き去りにされていたピロクテーテースを説得する任にあたります。当初は難航しますが、最終的にはピロクテーテースを戦列に加えることに成功し、トロイア陥落への大きな一歩となりました。

トロイア陥落時の行動

長きにわたる戦争の末、ついにトロイアが陥落した時、ネオプトレモスはその若さゆえか、あるいは戦士としての苛烈さゆえか、残酷な行動をとりました。彼は、すでに神殿に逃げ込んでいた老王プリアモスを容赦なく殺害します。さらに、トロイアの大英雄ヘクトールとその妻アンドロマケーの幼い息子であるアステュアナクスを、非情にも城壁の上から投げ落として殺害しました。そして、ヘクトールの未亡人となったアンドロマケーを、自らの捕虜として手に入れます（神話によっては、彼女は妻や側室のような扱いを受けたとされます）。これらの行いは、戦時の悲劇と人間の残酷さを描くエピソードとして語り継がれています。

戦後の旅と悲劇的な最期

トロイア戦争が終結した後、ネオプトレモスは捕虜としたアンドロマケーを伴って、故郷スキューロス島には戻らず、遥か西方のエーペイロスへと旅立ちました。彼はこの地で王となり、エーペイロス王家の開祖となったと伝えられています。この王家からは、後にマケドニア王ピリッポス2世の妻となり、アレクサンドロス大王の母となるオリュンピアスが出ています。そのため、アレクサンドロス大王はネオプトレモス、ひいては英雄アキレウスの血筋を引いていると広く信じられています。

しかし、ネオプトレモスの生涯は平穏には終わりませんでした。彼はその後、スパルタ王メネラーオスとヘレネーの娘であるヘルミオネーを妻として迎えます。しかし、ヘルミオネーは幼い頃からアガメムノーンの息子オレステースと婚約していた関係でした。ネオプトレモスが彼女を奪ったことで、オレステースは深い恨みを買い、やがてネオプトレモスに決闘を挑むことになります。最も広く伝えられている神話では、この決闘においてネオプトレモスはオレステースの剣に倒れ、命を落とします。そして、ヘルミオネーはオレステースの手に渡り、彼の妻となりました。

ネオプトレモスの死については、オレステースとの決闘説以外にも、デルポイのアポローン神殿で祭司たちに殺されたなど、いくつかの異なる伝承が存在します。しかし、多くの伝承が一致するのは、彼がデルポイの地でその生涯を終えたという点です。若くして父の後を継ぎ、トロイア戦争での輝かしい（そして時には残忍な）活躍を経て、新たな王国を築いたネオプトレモス。その劇的な生涯は、古代ギリシアの英雄譚の中でも特に印象的なものの一つとして語り継がれています。

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