ポルスキ・フィアット

ポルスキ・フィアット：ポーランドの自動車産業を彩ったブランドの歴史

ポーランドの自動車史において重要な役割を果たした「ポルスキ・フィアット（Polski Fiat）」は、イタリアの自動車メーカー、フィアット社との技術提携に基づき、ポーランド国内でフィアット車のライセンス生産を行っていたブランドです。その歴史は、第二次世界大戦前と後の大きく2つの時期に分けられます。

第二次世界大戦以前：PZInżにおける黎明期

1932年、ポーランド政府とフィアット社は協定を締結。ポーランド国営企業であるPZInż（Państwowe Zakłady Inżynieryjne）のワルシャワ工場で、フィアット車のライセンス生産を開始しました。この協定により誕生したのがポルスキ・フィアットです。当初は、イタリアから組立部品を輸入するノックダウン生産が中心でしたが、その後はポーランド国内での部品調達も進め、PZInżはポーランドでの自動車生産の中核を担うようになりました。

この時代に生産された主な車種には、コンパクトカーのPF 508/III Junak（フィアット508のライセンス生産車）、ミドルサイズ車のPF 518 Mazur、トラックのPF 618 GromやPF 621Lなどが含まれます。さらに、ポーランド独自の軍用車として、PF 508/IIIW Łazik、PF 518 Łazikといったオフロード車も開発されました。これらの車両は、ポーランドの軍隊や民間で使用され、同国の自動車産業発展に大きく貢献しました。しかし、1939年の第二次世界大戦勃発により、ドイツ軍による工場接収を受け、ポルスキ・フィアットは活動を停止せざるを得なくなりました。

第二次世界大戦後：復活とブランドの終焉

終戦後、1965年、ポーランド政府は再びフィアット社との協業を決定。これによりポルスキ・フィアットは復活することになります。1967年には、FSO（Fabryka Samochodów Osobowych）社がフィアット125のライセンス生産車である「ポルスキ・フィアット126p」の生産を開始しました。当初はノックダウン生産でしたが、その後はポーランド国内での完全生産体制に移行し、1991年まで製造されました。しかし、1983年にはライセンス契約の変更に伴い、ブランド名は「FSO」へと変更されました。

一方、小型車であるフィアット126のライセンス生産も開始され、FSM（Fabryka Samochodów Małolitrażowych）社が「ポルスキ・フィアット126p」を1973年から2000年まで製造しました。このように、ポルスキ・フィアットのブランドは一時的にFSOとFSMの両社で使用されましたが、1992年にフィアット社がFSMを買収したことで、ポルスキ・フィアットブランドは消滅します。その後、ポーランドでのフィアット車の生産・販売は、フィアット・オート・ポーランド社によって「フィアット」ブランド名で行われるようになりました。

まとめ：ポーランド自動車産業における足跡

ポルスキ・フィアットは、第二次世界大戦の前後でポーランドの自動車産業に大きな影響を与えました。フィアット社との技術提携により、ポーランド国内での自動車生産技術の向上に貢献しただけでなく、数々の車種を生産し、ポーランド国民の生活に深く関わっていました。その歴史は、ポーランドの自動車産業発展の過程を知る上で重要な事例と言えるでしょう。ブランドは消滅しましたが、その存在はポーランド自動車産業の歴史に刻まれています。

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