ポンヌフの恋人

『ポンヌフの恋人』（1991年）は、レオス・カラックス監督によるフランス映画で、彼の「アレックス三部作」の最終作にあたります。パリのポンヌフ橋を舞台に、ホームレスの青年アレックスと、失明の危機に瀕する女画学生ミシェルの純愛が描かれています。

この映画は、その制作過程において数々の困難に見舞われました。まず、撮影期間は当初の予定を大幅に超過し、実に3年もの歳月を費やしました。これは、監督自身の私生活における恋人の破局や、予算の膨張といった問題が絡み合っていたためです。当初計画をはるかに超える莫大な予算が必要となり、何度も撮影の中断を余儀なくされたと言われています。 さらに、パリの街並みを再現した巨大なセットの建設には莫大な費用がかかり、撮影後も解体費用が捻出できず、そのまま残されたという逸話も残っています。

ストーリーは、ポンヌフ橋の下で暮らす孤独なホームレス、アレックスを中心に展開します。ある日、彼は事故に遭い、そこに通りかかったのが恋の傷を抱え、失明の危機にあるミシェルでした。二人はポンヌフ橋で出会います。 アレックスはミシェルの美しさに心を奪われ、橋を縄張りにする老齢のホームレス、ハンスの助けを得て、ミシェルを橋の下に匿います。

最初は互いに距離を置いていた二人ですが、次第に心の距離が縮まり、愛情に似た感情が芽生えていきます。ミシェルは過去の恋の傷と失明への恐怖を抱え、アレックスはこれまで人間関係を築いてこなかった孤独な過去を持っていました。しかし、ポンヌフ橋という閉鎖的な空間で共に生活する中で、彼らは互いの存在に支えられ、特別な絆を育んでいきます。

フランス革命200年祭の夜、パリの空には華麗な花火が打ち上がり、その光景は二人の心を揺さぶります。アレックスは路上で火吹き芸を披露し、ミシェルはその光景に感動します。一方、ミシェルを探すポスターが街中に貼られるようになり、アレックスはそれらを一枚一枚剥がしていきます。しかし、ついにはポスターを貼る作業をしていた車を燃やしてしまうという、極端な行動に出てしまいます。

ある夜、ミシェルはラジオで自分のことを捜索しているアナウンスを耳にします。アレックスは警察に逮捕され、服役中にミシェルの病気が治癒します。そして、二人はポンヌフ橋で再会することを約束します。雪の降る中、再会を果たした二人でしたが、最後は川に落ちてしまいます。しかし、彼らはル・アーブルへ向かう船に助けられ、映画は「まどろめ、パリ」というセリフと共に幕を閉じます。

この結末は、当初の脚本とは大きく異なっています。監督は当初、悲劇的な結末を考えていましたが、ミシェル役のジュリエット・ビノシュが納得しなかったため、現在の結末を含む数パターンが撮影されました。監督自身はこの結末に一定の納得を示していますが、一部のファンや批評家からは、シリーズ全体の思想から逸脱した結末ではないかとの意見も出ています。

映画のメイキング映像には、カマルグ地方に「小さなパリ」を再現した巨大セットが建設された様子が記録されています。この壮大なセットは、映画の完成度の高さに大きく貢献した一方、莫大な費用を必要とした要因の一つでもありました。

『ポンヌフの恋人』は、その破格の予算と困難な制作過程、そして予想外の結末によって、多くの議論を呼び起こした作品として、映画史に名を刻んでいます。美しくも切ないラブストーリー、そして映画制作の裏側にあるドラマは、観る者に深い感動と余韻を残します。

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