ポール・サイモン・ソングブック

ポール・サイモン・ソングブック

『ポール・サイモン・ソングブック』（The Paul Simon Songbook）は、著名なシンガーソングライター、ポール・サイモンが発表したキャリア初のソロ名義によるアルバムです。1965年に英国でリリースされました。

制作背景と概要

本作が誕生した背景には、サイモン&ガーファンクルとしてデビューを飾ったアルバム『水曜日の朝、午前3時』が商業的な成功を収められなかったことがあります。この状況を受け、ポール・サイモンは活動の拠点をアメリカからイギリスへと移し、単身で音楽活動を展開していました。

滞在中に、BBCのラジオ番組で彼の楽曲が取り上げられ、リスナーからの高い評価を得たことが契機となり、急遽このソロアルバムを制作・発表する運びとなりました。録音はすべて英国で行われています。アルバム全編を通じて、ポール・サイモン自身のギター演奏のみを伴奏とする弾き語り形式で構成されており、彼のソングライティングの素質がストレートに表現された作品となっています。

日本国内では、「Simon Before Garfunkel」という独自のタイトルで1969年にリリースされました。この日本盤は、オリジナルのアートワークとは異なるモノクロのポートレート写真がカバージャケットに使用されていました。

一方、彼の母国であるアメリカでは、長らく単独のアルバムとして正式にリリースされることはありませんでした。初めてアルバム単体としてアメリカの市場に登場したのは、発表から約40年後の2004年にCDとして再リリースされた際のことです。

収録曲とその後の展開

本作に収録されている楽曲の多くは、後にポール・サイモンがサイモン&ガーファンクルとして発表する名盤、『サウンド・オブ・サイレンス』（1966年）や『パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム』（1966年）の中で、改めてレコーディングされ、セルフカバーとして収録されました。これは、サイモンがソロとして温めていた楽曲群が、デュオとしての活動で花開いたことを示しています。

特に注目される楽曲の一つに「教会は燃えている」（A Church Is Burning）があります。この曲は、当時のアメリカ社会における白人による人種差別を痛烈に批判するプロテストソングであり、本作における重要なメッセージの一つとなっています。この楽曲は、サイモン&ガーファンクル名義のスタジオアルバムには残念ながら収録されませんでしたが、ライブパフォーマンスでは度々披露されていました。

なお、本作の収録曲クレジットには「Paul Kane」名義の楽曲がいくつか見られますが、これはポール・サイモン自身が使用した別名であり、全曲が彼の手によるオリジナル楽曲です。

収録曲リスト

Side 1

アイ・アム・ア・ロック - "I Am a Rock" - 2:52
木の葉は緑 - "Leaves That Are Green" - 2:41
教会は燃えている - "A Church Is Burning" - 3:38
四月になれば彼女は - "April Come She Will" - 1:55
サウンド・オブ・サイレンス - "The Sound of Silence" - 3:19
とても変わった人 - "A Most Peculiar Man" - 2:26

Side 2

私の兄弟 - "He Was My Brother" (Paul Kane) - 2:58
キャシーの歌 - "Kathy's Song" - 3:42
ザ・サイド・オブ・ア・ヒル - "The Side of a Hill" (Paul Kane) - 2:28
簡単で散漫な演説 - "A Simple Desultory Philippic" - 2:25
雨に負けぬ花 - "Flowers Never Bend with the Rainfall" - 2:27
パターン - "Patterns" - 3:13

2004年再発盤ボーナストラック

2004年にアメリカで初めて単体CDとしてリリースされた際には、以下の未発表バージョンがボーナストラックとして追加されました。

アイ・アム・ア・ロック（未発表別バージョン） - "I Am a Rock" Alternate Version - 2:44
教会は燃えている（未発表別バージョン） - "A Church Is Burning" Alternate Version - 3:10

このアルバムは、後のサイモン&ガーファンクル、そしてポール・サイモンのソロキャリアにおいて、中核をなす楽曲群の原型が収められた、極めて重要な作品と言えます。

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