ポール・デュラン＝リュエル

ポール・デュラン＝リュエル：印象派を世界へ導いた画商

ポール・デュラン＝リュエル（1831年10月31日-1922年2月5日）は、19世紀後半の美術史において欠かすことのできない存在、フランスを代表する画商でした。彼は、単なる絵画の売買を超えた、現代的な画商の先駆けとして、特に印象派絵画の普及に多大な貢献を果たしました。

画商としてのキャリアの始まり

パリで図版販売業を営む家に生まれたデュラン＝リュエルは、1865年に家業を継承します。当初は、ジャン＝バティスト・カミーユ・コローやバルビゾン派の画家たちの作品を扱っていました。1867年にはパリ市内で画廊を移転し、事業を拡大。1860年代から1870年代初頭にかけては、バルビゾン派の主要な支援者として活躍しました。

普仏戦争とロンドンでの活動

1870年から1871年の普仏戦争勃発により、デュラン＝リュエルはパリからロンドンへ避難します。このロンドンでの滞在が、彼の画商としてのキャリアに大きな転換をもたらしました。ロンドンで、シャルル＝フランソワ・ドービニー、クロード・モネ、カミーユ・ピサロといったフランス人画家たちと出会い、交流を深めます。1870年12月には、ロンドンでフランス人画家協会の最初の展覧会を開催。この経験が、後の印象派との関わりを深めるきっかけとなりました。

印象派との出会い、そして支援

1871年にフランスに戻ったデュラン＝リュエルは、モネの作品を購入したことを皮切りに、当時まだ無名だったルノワール、ピサロ、ドガといった、後に「印象派」と呼ばれる画家たちの作品を積極的に収集し始めます。1874年の第1回印象派展は経済的に失敗に終わりましたが、デュラン＝リュエルは彼らの才能を信じ、1876年の第2回印象派展では自らの画廊を会場として提供しました。その後も、1882年の第7回印象派展などでも会場確保に尽力し、彼らの活動を支え続けました。

印象派絵画の世界への普及

デュラン＝リュエルの活動はフランス国内にとどまりません。ニューヨークに支店を設立するなど、海外への進出も積極的に行い、アメリカを始めとする諸外国での印象派の人気を高めることに貢献しました。ルノワールの『舟遊びをする人々の昼食』、モネの『積みわら』など、数多くの印象派作品を最初に買い上げたのもデュラン＝リュエルでした。モネ1000点、ルノワール1500点、ピサロ800点、シスレー400点、メアリー・カサット400点、マネ200点以上、合計5000点以上の印象派作品を扱い、オルセー美術館やバーンズ・コレクションなどに100点以上の絵画を提供しています。

アメリカ市場開拓と成功

19世紀末には、ヨーロッパのみならずアメリカ市場においても成功を収め、フランス印象派の最も著名な画商、そして商業的支援者としての地位を確立しました。ドガ、マネ、モネ、モリゾ、ピサロ、ルノワール、シスレーなど、多くの印象派画家はデュラン＝リュエルの支援を受けて才能を開花させました。アメリカにおける印象派の成功について、デュラン＝リュエルは「アメリカ人の大衆は笑ったりしない。買ってくれるのだ！」という言葉を残しています。これは、アメリカにおける美術市場の特性と、彼の鋭い洞察力を示す名言と言えるでしょう。

競争と交流

同じパリの画商であるジョルジュ・プティとは激しい競争関係にありましたが、一方、1893年には、日本美術商サミュエル・ビングによる歌麿・広重展を自身の画廊で開催するなど、幅広い美術への関与を見せています。

まとめ

ポール・デュラン＝リュエルは、単なる画商の枠を超え、印象派画家たちの才能を見抜き、支援し、世界に紹介した、美術史に名を残す重要な人物でした。彼の功績は、現代の美術市場にも大きな影響を与え続けています。

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