ポール・ロジン

ポール・ロジン

ペンシルベニア大学の名誉教授であるポール・ロジン（Paul Rozin、1936年 - ）は、現代心理学、特に人間の感情や行動に関する理解に多大な貢献をした人物です。彼は、感情の中でも特に「嫌悪」という複雑なテーマについて、その起源、進化、そして文化的な多様性を深く掘り下げた世界有数の専門家として国際的に知られています。また、人間がどのような基準で食べ物を選び、好き嫌いを形成するのかという、食行動における心理学的、文化的、生物学的な決定要因に関する先駆的な研究でも評価されています。

経歴

ロジン博士は、1956年にシカゴ大学で学士号を取得した後、1961年にはハーバード大学にて生物学と心理学の分野で博士号を取得しました。学術的な探求の道を歩み始めた彼は、1963年にペンシルベニア大学の心理学部に着任しました。長年にわたり同大学で教鞭を執り、1997年にはエドムンド・J・アンド・ルイーズ・W・カーン教授という栄誉ある地位に任命されました。教育者としても熱心であり、ベンジャミン・フランクリン・スカラーズのような特別な学部生向け優等プログラムや、大学院レベルのセミナーを担当し、多くの後進を指導しました。さらに、マーティン・セリグマンが創設した応用ポジティブ心理学修士プログラムでも教員を務めました。ペンシルベニア大学在籍中には、ソロモン・アッシュ民族政治紛争研究センター（現在はブリンマー大学に移転）の共同ディレクターも務め、学際的な研究活動にも携わりました。

研究分野

ポール・ロジンの研究関心は非常に幅広く、人間の心理と文化の相互作用に深く根差しています。彼の主要な研究テーマには以下のようなものがあります。

食物嗜好の形成: 人間が特定の食物を好きになったり嫌いになったりする過程はどのように進むのか、学習や経験が果たす役割。
伝染の魔術的信念: 物理的な接触や類似性が、心理的な影響力を持つという「共感魔術」と呼ばれる信念が、どのように発達し、人間の思考や行動に影響を与えるか。
嫌悪の進化と文化: 嫌悪感が生物学的な危険回避機構として始まり、文化や社会規範の中でどのように変容・進化してきたか。
動物性食品への両価性: 人間が肉などの動物性食品に対して持つ、魅力を感じると同時に抵抗感も抱く複雑な感情。
リスク認識: 食品の安全性や感染リスクに対する人々の一般的な理解や、健康上の懸念と道徳的な判断がリスク評価にどのように影響し合うか。
欲求と内面化: 人が何かを欲したいという願望と、実際にその欲求を内面化して行動に移す過程の関係性。
文化の獲得と進化: 個々人が所属する文化規範や習慣をどのように身につけ、それらが集団の中でどのように変化・進化していくか。
料理の本質: 料理という行為が単なる栄養摂取を超え、文化や社会にとって持つ意味や機能。
* 環境問題への心理的反応: リサイクル水のような、心理的に抵抗を感じやすい環境対策に対する人々の反応。

代表的な論文

ロジン博士は、これらの多様なテーマについて多くの影響力のある論文や著作を発表しています。代表的なものとして、感情論のハンドブックに掲載された「Disgust」（1993年）、共感魔術に関する「The laws of sympathetic magic: A psychological analysis of similarity and contagion」（1990年）、異なる文化圏（ベルギー、フランス、日本、アメリカ）における食物に対する態度を比較した「Attitudes to food and the role of food in life」（1999年）、そして嫌悪、怒り、軽蔑という3つの道徳感情と、共同体、自律、神聖性という3つの道徳規範を結びつけた「The CAD triad hypothesis」（1999年）などが挙げられます。これらの研究は、人間の感情、文化、そして日常的な行動（特に食）に関する私たちの理解を深める上で重要な基盤となっています。

ポール・ロジンの研究は、心理学という分野の枠を超え、文化人類学、社会学、そして公衆衛生といった多様な分野に影響を与え続けています。彼の探求は、人間の複雑な心理的構造と、それが文化や環境とどのように織りなされているのかを解き明かす貴重な手がかりを提供しています。

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