ポー川のひかり

ポー川のひかり（Centochiodi）

『ポー川のひかり』は、2007年にイタリアで公開された映画作品です。イタリア映画界の巨匠、エルマンノ・オルミが監督と脚本を務めました。原題は「Centochiodi」といい、これはイタリア語で「100本の釘」を意味します。

物語は、学期の休みに入り静けさの戻ったボローニャ大学を舞台に始まります。この権威ある学府で、前代未聞の不可解な事件が発生します。大学が所蔵する貴重な古文書の数々に、何者かによって無数の釘が打ち付けられ、損壊されていたのです。まるで文書を磔にしたかのような、その異常な光景は関係者に大きな衝撃を与えます。

捜査が進む中で、この奇妙な事件の容疑者として一人の人物が浮かび上がります。それは、ボローニャ大学で哲学を教えていた、将来を嘱望されていた若き教授でした。彼の才覚は広く認められていましたが、事件への関与が疑われたのです。しかし、事態はさらに複雑な様相を呈します。容疑者として名前が挙がったその教授は、すでに大学からも街からも、忽然と姿を消していたのです。

映画は、この失踪した哲学教授のたどる運命を追います。なぜ彼は古文書を損壊したのか、そしてなぜ姿を消したのか。彼の行動の裏にある思想や内面が、静かで詩的な映像の中に描かれていきます。現代社会における知性、信仰、そして人間の存在そのものに対する問いかけが、教授の孤独な旅を通して浮かび上がってきます。

主演を務めたのは、失踪する哲学教授役のラズ・デガンです。彼の繊細な演技が、内なる葛藤を抱える主人公の人物像を深く掘り下げています。共演者には、ルーナ・ベンダンディがゼリンダ役、アミナ・シエドが女子学生役、そしてミケーレ・ザッタラが司教役として名を連ねています。その他、ダミアーノ・スカイーニ、フランコ・アンドレアーニ、アンドレア・ランフレーディらが出演しています。

本作の製作は、エルマンノ・オルミ監督を中心に、多才なスタッフによって支えられました。製作はルイジ・ムジーニとロベルト・チクット、製作総指揮はエリザベッタ・オルミが担当しました。衣裳はマウリッツォ・ミッレノッティが手がけ、登場人物の心情や時代背景を反映しています。音楽はファビオ・ヴァッキが担当し、作品に深みと情緒を与えています。美術はジュゼッペ・ピッロッタが、編集はパオロ・コッテイニョーラがそれぞれ担当し、映像世界を構築しました。録音はフランチェスコ・リオタルド、助監督はガイア・ゴッリーニ、撮影監督はファビオ・オルミ、そして製作主任はエツィオ・オリータが務めました。日本語字幕は吉岡芳子が担当しています。

『ポー川のひかり』は、単なるミステリーの枠を超え、現代文明が抱える問題や人間の精神世界に静かに迫る、思索的なドラマです。エルマンノ・オルミ監督らしい、リアリズムと詩情が融合した独特の世界観が展開されます。

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