ポー平原

ポー平原：イタリアの穀倉地帯と歴史

ポー平原（Pianura Padana）は、イタリア北部、ピエモンテ州、ロンバルディア州、エミリア・ロマーニャ州、ヴェネト州にまたがる広大な平野です。その面積は約7万5000平方キロメートルに及び、パダノ＝ヴェネタ平野、パダーナ平原とも呼ばれます。

地理と特徴

ポー平原は、アルプス山脈とアペニン山脈に挟まれた東西に細長い地形をしています。ポー川が中央を流れ、肥沃な土壌と豊富な水資源が、古くから農業を支えてきました。交通の要衝でもあり、多くの都市が発達し、現在もイタリアで最も経済活動が活発な地域となっています。

平野の北部にはベルガモ、ブレシア、ヴェローナ、ヴィチェンツァなどの都市が、南部にはアレッサンドリア、ピアチェンツァ、パルマ、モデナ、ボローニャ、リミニなどの都市が点在します。ポー川沿いには、パヴィア、クレモナ、マントヴァ、フェラーラなどの都市が位置しています。これらの都市は中世にコムーネとして自治権を獲得し、周辺の農村部を合わせた地域世界を形成してきました。

ポー川沿いのトリノ周辺丘陵地帯コッリーナ・トリネーゼ、ポー川中流域、そして河口のポー川デルタ地帯は、ユネスコの生物圏保護区に指定されています。

近代工業と農業

ポー平原西部には、トリノやミラノなどの大工業地帯が広がっています。一方、アドリア海に面した地域は低湿地で、ポー川河口には広大なデルタが形成されています。歴史的には、ローマから見てポー川の手前側をチスパダーノ、向こう側をトランスパダーノと呼び、ナポレオン時代にはそれぞれチスパダーナ共和国、トラスパダーナ共和国が樹立されました。

18世紀から19世紀にかけて、ポー平原のピエモンテ州やロンバルディア州では灌漑施設が整備され、牧草栽培と家畜飼育が発展し、穀作と酪農を組み合わせた混合農業が盛んになりました。特に稲作が盛んで、かつては「モンディーナ」と呼ばれる季節雇いの女性労働者が水田の草取り作業を担っていました。しかし、機械化と除草剤の普及により、モンディーナの姿は徐々に消えつつあります。

ロンバルディア州南東部からエミリア＝ロマーニャ州にかけては、ポー平原の中心地であり、穀物生産と酪農が盛んです。この地域は、様々な種類のチーズやハムの産地として知られています。また、テンサイ、トマト、果樹などの栽培も盛んで、製糖業や食品加工業も発達しています。

19世紀以降、ポー平原では農業労働者を雇用する大規模農業経営が主流となり、農場には雇農の住居、家畜飼育施設、脱穀やチーズ・バター製造施設、貯蔵倉庫などを集めた「カシーナ」と呼ばれる経営基地が設けられました。これは、南イタリアやシチリアの大農経営とは異なる特徴です。

歴史と政治

ポー平原の歴史は、各都市が周辺農村部を巻き込み形成してきた地域世界の歴史と深く結びついています。20世紀には、大衆的なファシズム運動が最初にこの地帯で成立しました。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、ポー平原の農業労働者は「レーガ」と呼ばれる組織を結成し、農業家（大地主、大農経営者）に対する経済闘争を展開しました。レーガは労働組合としてだけでなく、労働者の日常生活における結びつきを強化する役割も果たしました。また、ポー平原はイタリア社会主義運動の最大の基盤となり、社会党が支配する地方自治体が多数誕生しました。労働会議所、協同組合、職業斡旋所、文化サークルなども設立され、社会主義運動を推進しました。

第一次世界大戦後、イタリア社会党とレーガによる地域支配はさらに強まりましたが、ファシズム運動の台頭により、社会主義は徹底的に破壊されました。ファシズム運動もまた、ポー平原における地域世界の存在を重視し、地域ごとの支配を続けました。

第二次世界大戦後、ポー平原は再び社会主義勢力の強い地域となり、特にエミリア・ロマーニャ州は隣接するトスカーナ州と並んで「赤いベルト」を形成しました。ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『1900年』は、20世紀のポー平原を舞台に、農業労働者の生活と社会主義、ファシズムの闘争を描いています。

文学

ポー川はイタリア最大の川であり、独特の風土と文化を育んできました。しかし、文学の面から見ると、ポー平原の文学は、シチリアや南イタリアの文学に比べて、地方文学としての明確な輪郭や一貫した性格を持っていません。

エミリア・ロマーニャ州のボローニャは、11世紀にイタリア最古の大学が誕生し、学芸の中心地として発展しました。13世紀にはグイード・グイニツェッリ、グイード・ファーバなどが活躍し、14世紀にはチェッコ・ダスコリ、フェデリコ・フレッツィなどが輩出されました。ルネサンス期には、フェラーラやマントヴァが文化的に優位に立ち、特にフェラーラでは、ボイアルドからアリオストに至る騎士物語叙事詩の伝統が花開きました。バロック時代には、ボローニャやモデナにマリニズモの詩人が現れ、アルカディア時代にはムラトーリとティラボスキが活躍しました。19世紀後半から20世紀初頭にかけては、カルドゥッチとパスコリがボローニャ大学で教鞭を執り、文学活動を活発に行いました。現代文学では、リッカルド・バッケッリの歴史小説『ポー河の水車小屋』、ジョルジョ・バッサーニの抒情的な小説などが知られています。

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